開発の上流工程に生まれる
コミュニティ
コミュニティをビジネスで活用するといえば、「両者はすでに密接な関係ではないか」という声が聞こえてきそうだ。
その典型的な例は、SNSや会員組織に新製品の情報を流し、多くの人々に広めてもらうことで認知や評判醸成を狙うものだ。たしかに『STAR WARS』には世界中にファンコミュニティが存在し、ディズニーも(著作権を侵害しない範囲内で)さまざまなサポートをしている。あるいは、自動車なら車種ごとに、飲食店なら店舗ごとに、それぞれファンコミュニティをつくる方法はすでにある。
ほかの活用例としては、いわゆる「βテスト」が当てはまる。製品やサービスの開発後期の段階において、プロトタイプ(=β版)をつくりあげ、ユーザーに試用してもらう。そこから意見や感想を吸い上げ、改良を施していくのだ。この方法は盛んに試みられており、「リーンスタートアップ」とも呼ばれている。この関係ではユーザーからフィードバックされる情報があり、開発側からの回答も生まれる。双方向のやり取りを通して、ユーザーの意図をコミュニティに反映することも可能となる。
これらの私たちが現在のビジネスで目の当たりにしているコミュニティは製品やサービスが先に生まれ、その後に生まれたものである。コミュニティを拡大させることで二次的なビジネスチャンスも生み出すことが目的であり、マーケティング施策の一環と呼べるものだ。
私が論じる戦略コミュニティはこれらとはまったく違う。戦略コミュニティはまだ形になっていない製品やサービスを対象にしている。開発の最上流の工程で導入され、どのような製品を作るか、あるいはどういったコンセプトで作るかという根本の意思決定に大きな影響を及ぼす。またそれは、リサーチという範囲に留まらない。コミュニティの参加者が製品の設計全体に関わったり、ある部分の開発すべてを担ったりする。
開発プロセスがスタートする前に、外部のメンバーによるコミュニティを意図的につくる、この「コミュニティファースト」こそが、組織の外にあるさまざまな知見を、イノベーションの創発につなげる効果的な方法として、私が提案したいものである。
コミュニティファーストをイメージしてもらうべく、ある実践例を見てみることにしよう。BMWは変化しつつあるモビリティ環境を見据え、自動車そのものの開発のほかに、さまざまな周辺技術、サービスの開発に力を注いでいるが、その中心として3つの戦略コミュニティを構築している。