BMWがコミュニティに
求めるもの

 その戦略コミュニティの1つめは、優れた技術をもつ外部企業とコラボレーションするためのコミュニティ「BMW Startup Garage」である。自動車業界は急速な変化の最中にある。現在はカーシェアリングや自動運転など、ハードウエア以上にシステムやソフトウエアの進化への期待が高まっている。それらの変化に対してBMWはAI、画像解析、IoT、データ分析などに強みを持つ企業との協業を図るべく、パートナーシップを戦略的につくる仕掛けとして、このコミュニティを設けている。

 2つ目は「URBAN-X」というスタートアップのアクセラレーションを行うコミュニティである。コミュニティに参加するスタートアップはニューヨークのワークスペースを利用でき、ネットワーキングの機会や出資者やVCに向けてピッチを行う機会も積極的に提供される。また、デザイン、ファイナンス、都市開発などの専門家がフルタイムでスタートアップをサポートする体制となっており、メンターも務める。

 このコミュニティにはパートナーとして参画している企業もあり、レンタルサイクル大手のCityBike、ロケーションサービスのHereといった都市サービスの事業者、あるいはアマゾンやグーグルなども名を連ねている。これまでに大気汚染対策のマスクを開発するO2-O2などへの投資が実現しており、必ずしも自動車と直接的に関係のあるサービスやプロジェクトばかりではない。

 最後はベンチャーキャピタルの「BMW iベンチャーズ」を中心としたコミュニティである。同社は「世界の巨大都市に向けた個人モビリティのソリューション」で、相乗りアプリを提供するScoopや、電気自動車の充電サービスを手掛けるChargepointなどに投資をしてきた。

 こうしたコミュニティからすでにいくつかのプロダクトが生まれている。たとえば、ゴミを捨てると側面のディスプレイでテトリスが動き出すというデジタルゴミ箱「TetraBIN」だ。ゲーミフィケーションによって、ゴミを拾うことを歩行者に促すこのプロダクトは、道路の美化に効果をもたらすものと期待されている。

 また、視覚障がい者のためのナビゲーションシステム「WEARWORKS」もある。これはスマホで道路上の障害物をスキャンし、それを避けながらリストバンドで目的地まで誘導するというもの。自動運転機能と融合することによって、視覚障がい者が自動運転車にたどりつき、降車するまでを一気通貫にサポートできるかもしれない。BMWの本道である自動車に戻るだけでなく、次世代モビリティのアイデアにもつながるはずだ。

 このように、BMWの戦略コミュニティは車やバイクといったモビリティに直接影響するものばかりが対象ではない。社会環境が変化し、モビリティに求められることも変容するなか、3つの戦略コミュニティが担うのは、製品開発のアイデア探しではなく、次のモビリティをリードするための「エコシステム(生態系)」の構築である。

 そのために、多様な企業、多様な人々を迎え入れる仕組みとなっているが、ここで重要なことは、コミュニティの運営において1つの社会的イシューを設定されている点だ。それは「都市課題の解決」である。

 コミュニティに才能ある人材や企業を呼び込み、有効に機能させるためには、コミュニティがBMWの企業目的に一意につながってはならない。必ず立場の違いによる利害の不一致が生まれるからだ。今回BMWは、都市問題という「解決すべき」と考える人の輪がより大きくなる課題を見つけ、その解決をコミュニティの目標にしたことで、都市行政やインフラ、ゴミ問題や障がい者の移動といった、幅広い知見を持つ外部のプレーヤーを巻き込むことに成功している。