男性性を競う文化

 我々は、米国とカナダのさまざまな組織で働く数千人の従業員を対象に、アンケート調査を行った。回答者には、自分の職場で男性的な諸特性が高く評価されているかどうかを評価してもらうとともに、組織のその他の特徴や、個人的な成果についても報告してもらった。その結果、「男性性を競う文化」を特徴づける4つの男性性の規範が浮かび上がった。これらは互いに強い相関があり、組織の機能不全とも強く関連していた。

 1.「弱みを見せてはならない」
 尊大なまでの自信がなくてはならず、疑念や過ちを認めず、ソフトな感情や弱い感情を抑圧する(「女々しいのはダメ」の)職場。

 2.「強さと強靭さ」
 力強い人や運動的な人(ホワイトカラーの仕事であっても)、自分の持久力を誇示する人(長時間働くなど)を称賛する職場。

 3.「仕事最優先」
 組織外のいかなるもの(家族など)も、仕事の邪魔をしてはならない職場。休憩や休暇を取ることは、コミットメントの許しがたい欠如と見なされる。

 4.「弱肉強食」
 非情な競争にあふれ、「勝者」(最も男性的な人)が「敗者」(あまり男性的でない人)を負かすことに力を注ぎ、誰も信頼されない職場。

 こうした規範が組織に根を張る理由は、これらに従って振舞うことこそが「男」を意味するからである。「man up(しっかりしろ)」のような言葉が物語るように、男性は男であることを証明しなければならないものなのだ。それも1度きりではなく、何度でも。

 世界中の多くの文化で、男性は、男らしさに関する文化的な規範に沿った振舞いをすることで、「男」になる。それは強権的な態度、たくましさ、リスクテイク、攻撃性、あるいは規則を破ることかもしれない。

 そして男性は、ちょっとしたことで、自分が「あまり男らしくない」ように感じてしまう。失業するのではないかと考えたり、「女性的な」性格を示唆するフィードバックを受けたりするだけで、防御的な反応を示すのだ。

 こうした研究結果はどれも、男性性とは不安定なものであることを意味している。苦労して手に入れても、簡単に失われるのだ。そして男性は、男らしさを繰り返し証明する必要性から、攻撃的に振る舞ったり、不当なリスクを負ったり、長時間働いたり、熾烈な競争に身を投じたり、女性(あるいは他の男性)にセクハラをしたりすることがある。これらは特に、男性性が脅かされていると感じる場合に顕著となる。

 この「自分はふさわしい資質を備えている」ことを証明するプレッシャーにより、仕事における焦点が、組織のミッションの達成から、みずからの男性性の証明へとシフトする。その結果が、「自分のほうが男らしい」という終わりのない競い合いである。

 たとえば、重労働や長時間労働を引き受けて自慢する、手抜きをして他の人より多く稼ぐ、法外な物理的・身体的リスク(ブルーカラーの仕事において)あるいは意思決定のリスク(不正な金融取引など)を取る、などだ。

 競争は、口に出せない不安(不安を認めることは弱腰だと見なされるため)と防御的な姿勢(部下のあらゆる失敗を責めるなど)を増長する。そして協力、心理的な安全、同僚間の信頼、不確かさやミスを許容する力を失わせる。これらは相まって、悲惨で非生産的な職場環境を生み出し、ストレス、燃え尽き、離職率を高める。

 男性性の競い合いが最も一般的に見られ、しかも始末に負えないのは、重大かつ不安定なリソース(名声、権力、富、安全)が絡んでいる男性優位の職業である。たとえば、金融やハイテクのスタートアップでは、数十億ドルがあっという間に得られたり失われたりする。リスクが高い外科手術では、ミスが一切許されない。軍や警察の部隊では、厳格な指揮系統の下で危険な仕事が行われる。

 このような状況下で、女性はどうしているのだろうか。女性も皆と同じように、生き残りをかけたゲームに参戦しなければならない。そして、勝ちを競う男性とまったく同じような悪しき振る舞いをすることで成功を収める女性も、わずかにいるのかもしれない。

 だが、この競争は、女性とマイノリティに不利なように仕組まれている。「ふさわしい資質を備えていない」という疑念を晴らすために、いっそうハードに働かなければならない。しかし一方で、怒りや自己アピールといった強腰の態度を示すと、反発を食らうのだ。

 この二重苦によって、女性やマイノリティの成功の可能性は低くなっている。彼ら彼女らのなかには、競争に勝っている男性のサポート役に就くほうが生き残りやすい、と考える人もいるだろう。

男性性の競い合いが有害である根拠

 組織は、協力的なチームワークによって成功を収めるものだ。だが男性性の競い合いによって、人々は自分の個人的なイメージと地位を高めることに集中し、そのためには他者や組織すらも犠牲にする。

 我々の研究では、業績に悪影響を及ぼし、組織の有効性と評判を危険にさらす、数多くのマイナスの結果について記述している。男性性を競う文化が強い組織は、以下のような問題を抱える傾向にある。

 ・有害なリーダーが、自分の自尊心を守るために他者を侮辱したりいじめたりする。
 ・心理的な安全性が低い。従業員は、自分が受け入れられている、あるいは尊重されているという感覚を持てない。自分を表現したり、リスクを取ったり、新たなアイデアを共有したりするのを不安に感じる。
 ・リーダーが仕事と家庭の両立をあまり支援せず、従業員のワークライフ・バランスを悪化させている。
 ・女性差別的な風土により、女性が敵意または庇護者ぶった態度のいずれかを経験する。
 ・ハラスメントといじめ。セクハラ、人種的ハラスメント、社会的な侮辱、身体的な脅しなど。
 ・燃え尽きや離職の割合が高い。
 ・男性と女性の従業員双方において、病気とうつ病の割合が高い。

 これらの問題により、直接的なコスト(離職やハラスメント訴訟による)と、間接的なコスト(心理的な安全性の低さによるイノベーションの減少)の両方が生じる。簡単に言えば、男性性を競う文化は、組織およびその内部にいる男性と女性にとって有害なのだ。ウーバーなどの極端なケースでは、抑圧されていたものが爆発し、組織に深刻なダメージや破壊すらもたらしている。