意思決定基準をシンプル化し
デジタル投資を拡大した米薬局チェーン

――企業価値創出プロデューサー型CFOが成果を上げた具体的な事例はありますか。

山路 米国の薬局チェーン最大手で、創業100年以上のウォルグリーンは、「At the Corner of Happy & Healthy」のスローガンの下、会員の健康向上に役立つデジタルサービスを複数リリースし、店舗への誘導を促進して売り上げを伸ばしました。例えば、毎日8000歩以上歩くなど、一定の条件をクリアしたユーザーに店舗で使えるポイントを与え、来店を促す取り組みなどです。

 当時のCFO、ウェイド・ミケロン氏は、デジタル投資の意思決定基準をシンプル化して投資を促すとともに、テクノロジーの専門人材と密に連携したことで、デジタルトランスフォーメーション推進のための基盤を構築しました。

高塚 彼は、投資判断する際は「これが達成できれば投資は成功である」という指標を5つ程度に絞り、それに沿った意思決定を行っています。その指標には会員数やリピート数などが考えられますが、ある時点で一定の基準に達しなかった事業はストップ、あるいは見直すといったように規律を作っておくことは非常に重要です。これはある意味、VC(ベンチャー・キャピタル)の投資先であるベンチャーに対する評価基準に似ているといえるでしょう。

 日本企業の場合、こうしたシステムは作れていないケースが多い。新規事業のための部署を立ち上げて大胆に権限を委譲するなどというリスキーなことは避け、既存事業の部署に予算だけ与えてやらせるといったケースが目立ちます。でもそれでは、責任の所在があやふやになるし、目先の売り上げが立ちやすい既存事業が優先されるという事態に陥りがちです。

山路 ポイントとなるのは、アクセルとブレーキの上手な使い分けです。例えば、5年間で1000億円のデジタル投資を行う計画を発表していても、実際には使い切っていないことがよくあります。これは個々の案件評価の際に、リスクの大きい案件にブレーキをかけているからです。しかし、不確実性が高くてもアクセルを踏んで将来の果実を取りにいかなければ成長はできません。こうした判断を的確に行うことがCFOの重要な役割になるわけです。

 この役割を果たす上で、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏の言葉「意思決定には後戻りできるものと、できないものがある。後戻りできるものに関しては失敗する可能性も織り込みつつどんどん決定すればいい」という心持ちが非常に重要になると思います。

 また、デジタル分野はCIO(最高情報責任者)/CTO(最高技術責任者)/CDO(最高デジタル責任者)が専門とする領域であるため、彼らと密なパートナーシップを築いてデジタル投資を推進していくことも必要です。