では、私たちはなぜ否定的な発言をする者に権力を与え、支持するのだろうか。その原因は、人間心理に根ざしていると思われる。
他者や他の組織をすすんで批判したり、否定したり、誤りを指摘したりすることで、否定的な発言をする人物は、主体的に自律して行動していると見られがちだ。主体性こそが権力の主な決定要因である。それにより、否定的な発言をする人物の権力は、いかなる社会的制約や他者の資源ともつながっていないような印象を与え、彼らをさらに力強く見せるのだ。実際、私たちが実施した4つの研究結果からも、主体性がこの傾向の根底にある原因だと認められている。
また、否定的な発言をすることで、人は自分が権力を握っていると強く感じるようになるものなのだろうか。
私はそれを突き止めるべく、さまざまな分野で、否定的な発言をする人物と他者を鼓舞する人物、そして中立の立場を取る人物の役を演じてもらう実験を行った。その結果、否定的な発言をした被験者は、他の2つのグループよりも自分が権力を握っていると感じることがわかった。否定的な発言をすることで、批判している内容に対する自分の能力に自信が持てるようになるわけではないにもかかわらず、である。
こうした否定的な発言と権力の関係を知ると、野心的なリーダーは、より批判的な発言に価値を感じるようになるかもしれない。ただし、いくつか注意すべきことがある。
第1に、リーダーの権力に対するイメージは、時とともに変化する。人は初めのうち、否定的なリーダーの主体性を、その能力にかかわらず評価するかもしれない。しかし、次第に評価を見直し、ついには考え方を変える。その結果、否定的な発言をするリーダーは権力の座から転落することになる。
また、見境なく否定的な発言をするリーダーが長く支持されるとは考えにくい。否定的な発言が多すぎると、不機嫌かつ理不尽な印象を与えることになるからだ。
否定的な発言と権力を結びつける傾向は、不利益を被っていると感じている人たちの間で最も強くなる。否定的な発言によって彼らの嫌悪は増長され、現状を打破してくれる人物への支持が促されるからだ。その関係については、今後の調査で検証する予定だ。
長年にわたる人間の心理的要素に基づいているとはいえ、否定的発言とリーダーシップの関係は、現在のデジタル時代には妥当性が増しているといえそうだ。実に多くの人的交流やコミュニケーションが文字によって遠隔で行われるため、レトリックが権力の受け止め方に与える影響は、かつてなく大きくなっている。
リーダーを選ぶときも、みずからのリーダーシップを高めるときも、この力学が良くも悪くもどう作用するのかを理解しておく必要がある。
HBR.ORG原文:Why We’re Drawn to Leaders Who Emphasize the Negative, January 03, 2019.
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アイリーン・Y・チョウ (Eileen Y. Chou)
バージニア大学フランク・バッテン・スクールの助教。公共政策を担当。