ダイバーシティの観点から新たなレコメンド機能を提供
――進化したレコメンド機能とは、既存の仕組みとどう違うのですか。
ひと言でいうと、「ダイバーシティ」です。ECサイトで買い物をすると、「これを買った人の多くは、これを買っていますよ」という形でレコメンドが行われます。レコメンドの基本的な手法ですが、「これ」を購入した瞬間に、だれに対してもほぼ同じような推薦が行われることになります。それではユーザーにとって面白みがありません。昨今、注目されているのはダイバーシティという概念で、たとえばレコメンドする3つのアイテムのうち、2つは「多くの人が買っている」という理由とは別の観点からレコメンドを行うもので、この仕組みをいかに構築するかにここ数年取り組んでいます。
DMMとの共同研究については、昨年12月に「IEEE BigData 2018(ビックデータ国際会議)」で発表も行いましたが、なるべく違うものをレコメンドするようなスキームを提案しています。特にここで注目したのは、売り手とユーザーの両方の立場です。「これを買った人の多くは、これを買っています」という形でレコメンドすると、特定のアイテムばかりがレコメンドされてしまうことになります。売り手の立場からは「もっと幅広いアイテムを売りたい」というニーズがありますし、ユーザーの立場からも「多様なアイテムのレコメンドを受けたい」というニーズがあります。そこで、対象とするユーザーにマッチするアイテムのなかで、なおかつサービスを提供する側がレコメンドしたいものを通常のレコメンドアイテムに加えてレコメンドすることを試みています。
そうすると何が起こるかというと、レコメンドされるアイテム全体として、ユーザーの意向にマッチする精度は若干落ちますが、多様なアイテムをレコメンドするというスコアを上げることができ、売り手とユーザーの双方のニーズを満たすことができるというわけです。
もう1つ、3月初旬に国内の研究会で発表を予定しているのが、なぜ、これがレコメンドされたのか、理由づけをして、ユーザーに説明するスキームも開発しています。まだこれは基礎研究の段階で、実際の評価はユーザーに見せてみないと納得がいくかどうかわかりませんが、機械学習の技術を活用すれば、レコメンド結果から逆算して、その理由を示すことも可能だと考えています。
――DMMと共同研究に取り組む意義は、どんなところですか。
このダイバーシティというのは、従来の精度のほかに最近、考えられてきた技術ですが、実際にはユーザーに見せてみないと、結果は評価できないわけです。そこで、多くの研究では、段階的に精度を落としたうえで、ダイバーシティを上げていくということを行っているのですが、それはチューニング以外の何物でもありません。ここで重要になってくるのが、研究を行うときに、実際にレコメンドのシステムがサービスとして存在するかどうかです。そういった意味で、実際にサービスをお持ちのDMMと一緒に取り組むメリットは大きいといえます。少しやってみて、うまくいくかどうかを試すことができますから。DMMに限らず、ビッグデータの研究、特にウェブ系のサービスは、実際にやってみることが大切です。結果は論文的にはよくても、現実的には全然ダメだったりするからです。企業との連携を強化する背景には、そうした事情もあります。