実践頻度とその効果
そして、3月初旬に実施したヤフー社員110名に対する実験データの紹介に移った。
被験者は同社のメタ認知トレーニングの体験とマインドフルネスの実践頻度をにらみながら選んだ。その属性は実践頻度週3回以上が14%、週1、2回が35%、週1回以下が28%。体験会に参加しただけの人が12%、一切実施したことがない人が11%だ。
「110名にはまず、『ふだん、メタ認知(客観視、俯瞰視)することはどの程度ありますか?』『ふだん、ネガティブ感情にとらわれることはどの程度ありますか?』という2つの質問を投げ掛けた。メタ認知の度合いを4段階で集計したところ、実践している人と、していない人とでは明らかな違いがあった。ただ意外だったのは、まったく実践したことのない人のメタ認知の割合が高かったことだ。実践頻度とネガティブな感情にとらわれるかをクロス集計しても同じような傾向が出た」という。
さらに深掘りして「実践頻度」「メタ認知」「ネガティブ感情」の3つをクロス集計したのが図表1だ。

出所:ヤフージャパン
実践頻度が週1回以上と、週1回未満の大きく2グループに分けて集計してみると、週1回以上やる人はメタ認知ができており、ネガティブな感情に対する感度も高いことがわかる。一方、週1回未満の人はメタ認知することもなく、ネガティブな感情にもとらわれないという首を傾げたくなる回答が多かった。
そのデータを見た荻野氏は「あのダライ・ラマでさえもネガティブな感情が湧いてくることがあると言っている。問題はそれに気づいているかどうかだ。マインドフルネスを実践する人はネガティブな感情を客観的にメタ認知できているが、やっていない人はネガティブな感情が立ち上がっていても、それに気づけていないのだろう」と評した。
このデータをもとに、マインドフルネスとメタ認知との関係では、「週1回以上の実践で、メタ認知や感情の認知の度合いも高まる」という仮説が立てられた。
世界で最もEIが低い日本
ここでMiLIより、理事の吉田典生氏が補足する。「良くない感情を制御できずに仕事をしても結果にはつながらない。いままでストックしてきた知識やスキル、理性を十分に活用して良い結果につなげたり、ストレスをうまくコントロールしていくためには、感情に対する気づきと感情のセルフマネジメントが不可欠だ」と述べた上で、EQに関する世界的な組織であるシックスセカンズ社のアセスメントによるEQスコアの日本の現状を示した(図表2)。
図の左端が日本だ。横軸はEQスコアで日本は最下位。縦軸はWHOの健康指標で、これも真ん中より少し下に位置する。
また円の色の濃淡はEQを構成する能力と相関性の高い「感情のナビゲート」を表す。自分の感情に気づき、自分の能力が発揮できるように制御して文字通りナビゲートする要素だが、日本はその色も薄い。
さらに円の大きさはその人のサクセスファクターと言われる満足度の重要な要素であるウェルビーイングのスコアを表現するが、日本は円も小さい。
吉田氏は「まことに残念な結果だが、日本人にはまだそれだけの伸びしろがあるということ」と前向きに捉え、「EIを構成するものに、まず自分を知る自己認識がある。それは自分にいまどんな感情が立ち上がっているのかを知る感情リテラシーで、要するに感情の読み書き能力である。自分の感情にどんなパターンがあるのか、自己認識しないとセルフマネジメントはできない」として、シックスセカンズ社が開発した感情知能検査(SEIリーダーシップレポート)を紹介した(図表3)。ここでは3つの領域と8つのコンピテンシーが、自分の感情を知る「青」、感情マネジメントを行う「赤」、それを他者や社会、組織に対して活用していく「緑」で構成されている。