声をかけ、言葉を交わすことのメリット

 EY全グループ内で、日常的な関係構築の手段として、またショッキングなニュースや、深刻な出来事を経験した同僚へのサポートの方法として、従業員同士が調子はどうかと言葉を交わすことがいかに重要かを、筆者らは長い時間をかけて研究を積み重ねてきた。

 もちろん、職場で同僚とどのような関係を築きたいか、人によって好みは異なる。座ってじっくり話したい人もいれば、デジタルデバイスでのチャットを好む人もいる。そもそも、他者との関わりに消極的な人もいるだろう。

 従業員が心地よいと思えるような形でコミュニケーションを取る術を学ぶことは、職場にコミュニティの感覚をつくり出す鍵となる。同僚と言葉を交わす最善の方法を見出すうえで、以下にいくつかのアドバイスを挙げよう。

 ●小さなことで他者とつながる機会を活用する

 相手を評価し、理解し、大切に思っていることが伝わる形で、同僚と接するよう努めよう。いまに意識を集中し、好奇心を持って、相手と真につながるよう、日々の小さな機会をとらえよう。たとえば、シンプルに「調子はどう? 何か手伝えることはない?」と尋ねるのは、ほぼどんな状況でも使い回しがきく、効果的な問いかけだ。

 ●思い込みは控える

 調子はどうかと声をかける時間は、相手の話に耳を傾ける時間であり、議論をふっかけたり、相手を説得したりするための時間ではない。

 相手の言うことが理解できなかったり、気に入らなかったりする場合は、一つの意見として受け止めるか、もう少し詳しく聞かせてほしいと頼んでみるとよい。そうすれば、相手の反応に意外な驚きを感じるかもしれない。

 たとえば、次のような言葉を使うとよいだろう。「もう少し詳しく聞かせてくれない?」「そんな視点から考えたことはなかったな。でも、同じシチュエーションでも解釈の仕方は人それぞれで当然だと思うから、説明してくれてありがとう」

 ●相手は善意を持っていると見なす

 同僚とのどのような会話も、話し手も聞き手も善意を持っているという信念を持って臨もう。話題がやっかいな問題であるときは、特にこの姿勢が重要だ。

 会話の途中でまごつくことがあるかもしれないが、相手の善意を信じることで、一呼吸置き、要点を明確にするための質問をし、より意義深い形で相手と結びつくことが可能になる。

 時として、このように会話の最中で間合いを置くことは、大きな意義がある。「言うべきことがわからなくて、ちょっと考えていました」「あなたの話をもっと聞きたいので黙っていました」と言うとよいだろう。

 ●弱みを見せてもいい

 同僚から積極的にフィードバックを求めよう。とりわけ、自分より下位の同僚のフィードバックは重要だ。

 相手を信用していることは、フィードバックの受け止め方や、その後の行動で示すとよい。たとえば、相手の意見を尊重し、自分の直面している課題についてオープンに語ることで、同僚や部下との関係が人間味のあるものになる。

 ●一貫性と責任感を持とう

 プレッシャーを感じていたり、難しい話題だったりしても、透明性と一貫性を保ち、インクルーシブ(包摂的)な振る舞いに徹しよう。相手にも、責任ある言動を期待し、強化し、報いることだ。

 たとえば、厄介な問題が発生した際には、チームメンバーに会話の糸口を示し、言葉を交わすなかでインクルーシブな振る舞いをすることで、他のチームメンバーの規範となるとよい。

 これら5つのアドバイスは、きっと役に立つはずだが、真のインクルージョンへの旅は終わらない。インクルーシブな職場を築くには、リーダーシップの継続したコミットメントが欠かせない。とりわけ、職場をみずからの価値の確認や安全、達成感や幸福感を得られる場と捉える人が増えているいまだから、なおさらだ。

 この取り組みは代わりに、従業員のモチベーションを高め、顧客維持に役立ち、財務業績を向上させるなど、さまざまな面で計り知れないメリットをもたらす。調子はどうかと声をかけ、言葉を交わすというシンプルな習慣を取り入れることは、互いの人生に多大な変化をもたらし、さらには、企業収益の増幅につながる。


HBR.ORG原文:The Surprising Power of Simply Asking Coworkers How They’re Doing, February 28, 2019.

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カリン・トワロナイト(Karyn Twaronite)
総合コンサルティング会社EYグローバル・ダイバーシティ・アンド・インクルーシブネス責任者。EYのインクルーシブな文化を強化することで、世界各地で活躍するEYの従業員のダイバーシティを最大化するという責務を負う。ダイバーシティとインクルーシブネスについて、さまざまな顧客のコンサルティングにも応じる。EYグローバル・プラクティス・グループのグローバル・タレント・エグゼクティブ・アンド・USエグゼクティブ・コミティのメンバーでもある。