●フィードバック

「学校に入ってからずっと、どんなことでも評点がつきました。自分のパフォーマンスに対し、すぐにフィードバックが返ってきました。でも職場では、そんなにすぐフィードバックがあるわけではなくて……これが移行における最大の困難だと思います」――キャンドラ、23歳、医療研究アシスタント

 大学では、フィードバックは明確で一貫性がある。シラバスには、その学期で要求されることや評価の基準が詳述されている。また課題を提出するたびに、教授からのフィードバックがある。自分からフィードバックを求めなくても(書面で)直接提供されるが、個人的に説明されることはめったにない。さらに、評価は標準化されているので、自分の成績が他の人と比べてどうか、以前の授業や学期に比べてどうかがすぐにわかる。

 ご想像のように、いったん職業の世界に入ると、フィードバックのあり方は一変する。

 まず、職場で受けるフィードバックは大学よりも一貫性がなく、わかりにくいことが多い。マネジャーや組織によって差があり、仕事に対して明確かつ具体的で一貫性のあるフィードバックを受けることもあれば、解釈に苦しむようなフィードバックが途切れ途切れに来るだけで、その方法は折々での短いコメントという形を取り、正式な業績評価はごくまれということもある。

 だがどちらにしろ、その内容はたいてい定量的というよりは定性的で、自分の評点は何点で偏差値はどの辺かにこだわってきた学生にはわかりにくい。

 この文化的な違いから、新米の社会人はフィードバックの空白に直面することがある。もし要改善点があるとしても、どう改善したらよいのか、そして、自分の所属企業やキャリアの中で向上するために必要なスキルを、どうすれば構築できるのかがわからないのだ。

 職場でのフィードバックについてはさらに、大学では一般的でなかった新しいスキルを習得する必要がある。すなわち、肯定的および否定的なフィードバックの両方を、落ち着いたプロ意識のある態度で受け取ることである。

 たしかに、演劇や創作文などのごく少数の授業では、プロ意識を持ってフィードバックをやり取りする態度を身につけるという有益な体験があるだろう。だが大学の大半の授業には、それは当てはまらない。フィードバックは個人的な面談ではなく書面で提供されることが主で、面と向かってフィードバックのやり取りや議論をする機会はあまり多くない。

 ●人間関係

「急に、さまざまなタイプや経歴の人と付き合うようになるんです。しかも、その人たちのことをろくに知らないままで」――デイビッド、26歳、事業戦略コンサルタント

 職業の世界では、人間関係も大学とは大きく違う。大学では、親しくなりたい人と関係を築けばいいし、たいてい相手は同年代だ。授業での交流やキャンパスの課外活動、友人の輪を通して、自然に関係ができる。楽しくない関係を継続しなければならないプレッシャーは、通常、ほとんどない。

 ところが職業の世界に入ると、まったく違う人間関係の構築に巻き込まれていく。ただの楽しい仲間、気の合う人々の集まりをつくるのでなく、もっと戦略が必要だ。

 職場での人間関係の構築は、友情を育むことで成り立つ面もたしかにあるが、みずからの仕事の成功やキャリアの向上に資する同僚との堅固なネットワークを築くことでもある。そのためには、さまざまな年齢、経歴、関心を持つ人々と常に交流することになる。

 また、上司とのつながりをつくることでもある。上司は部下にただ指示を下すだけでなく、将来のキャリアの展開に大きな影響力を持つ新たな権威者なのだ。

 そして時に、職業の世界では、本当は好きでもなく友人にもなりたくない人とも関係を築くことがある。大学では、好きでない人はただ避ければすむが(嫌いな教授の講義はとらなければよい)、職業の世界ではそれは通用しない。難しい人間関係に対しても、生産的にプロ意識を持って対応する方法を見つけなければならない。

 最後に、大学では、自分がある講義で教授にどういう態度をとったかは、他の講義や学部での自身の体験、成績、評判にほとんど影響しない。だが当然ながら、職場では、上司との接し方はその会社での自分の成功に大きな意味合いを持ちうる。たとえば、もしあなたの上司がほかのリーダーに、あなたの仕事ぶりや職業倫理について不満をこぼすなら、あなたが出世の階段を上るのは難しくなるだろう。

 ●責任

「大学を出たばかりのときは、どんな場所に足を踏み入れているのかわかっていません。ちゃんと成果を上げなければ、いつ仕事を失うかわからないのです。学生は、職場が学校と同じように気楽な世界だと思っていますが、そんなものではありません。ずっと責任が重いんです」――マイケル、27歳、地域営業担当者

 大学の目的は、少なくとも学問という観点では、学生の知識基盤とクリティカル・シンキング能力の形成に尽きる。学校では、学生は主に自分自身に対して責任を負えばよい。時にはプロジェクトチームに参加したり、誰かと組んでプロジェクトを遂行したりすることもあるだろう。だが結局のところ、グループの成績も重要だが、最終的な責任の対象は、自分自身や自分の成績、成功、学習の如何にかかっている。

 一方、職業の世界ではたいてい、はるかに多くのものが利害の対象となり、ミスが重大な結果を招くことがある。自分だけではなくチームや同僚、上司、部署、会社に対して責任を負う。

 重要な仕事で失敗したり、クライアントとの関係を傷つけたり、サプライヤーへの対応を誤ったりすると、埋め合わせもできず、追試が認められるわけでもない。ミスは必ずしも学習の機会にはならないし、それだけではすまない。自分の評判とキャリアに重大な影響を及ぼすことがあるだろう。このことは、新米の社会人に、まったく別次元のプレッシャーと個人的責任としてのしかかる。

 これら3つのテーマを通してわかるのは、新米の社会人の中には、大学から職場へと苦も無く移行できる人もいるが、かなり苦戦する人もいるということである。では企業やマネジャーは、新社会人にとってのこの文化的移行のハードルを下げるために、何ができるだろうか。

 私たちが第1に推奨するのは、この移行を他の重要な文化的変更と同じように対処し、文化的適応のベストプラクティスを、大学から職場への適応に対しても適用することである。つまり規範とルールを教え、そうしたルールや期待事項がなぜ、どのように大学と違うのかをきわめて明確に説明することだ。

 だが賢い企業ならさらに、先輩の従業員に対しても、前向きで後輩を励ますような思考態度を積極的に奨励するだろう。リーダーは、誰もがかつては新米で、厳しい文化的移行を体験したはずであることを伝えなくてはならない。

 もし先輩の従業員が新卒者の直面する困難に共感できたら、新卒者の振る舞いの原因を「特権的な思考態度」よりも、文化的移行に見出すようになるだろう。少なくとも、このもう1つの解釈を受け入れやすくなるはずである。

 もちろんメンタリングもこの過程に不可欠だが、より経験のあるメンターがよりよいとは必ずしも言えない。肝心なのは、移行の両面を体験したメンター、すなわち、その困難がどんなものだったかを覚えていて、それに対処し克服したことがある人を見つけることだ。同じような体験をした友人や同僚の存在も、メンターにとって役立つ。それによって、新社会人に成功へのさまざまな選択肢や道を示すことができるだろう。

 最後に、新社会人は成功したいと思うなら、学業から仕事への移行の達成に必要な時間と努力を、みずから進んで捧げなければならない。たとえば、自分よりも経験のある友人や家族に、この移行を乗り切るのに何が役立ったかという話を聞くこと、また自分がどのソフトスキルが弱いかを認識して、改善する計画を立てることなどが挙げられる。

 結局のところ、頭でっかちな大学教育だけでは、いずれ壁に突き当たるのだ。それが私たちの研究を通じた発見である。
 

HBR.ORG原文:The Biggest Hurdles Recent Graduates Face Entering the Workforce, April 11, 2019.

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アンディ・モリンスキー(Andy Molinsky)
ブランダイス大学インターナショナル・ビジネス・スクール教授。組織行動学を担当。著書にGlobal Dexterity(未訳)、Reach(邦訳『ひっこみ思案のあなたが生まれ変わる科学的方法』ダイヤモンド社、2017年)がある。Guide to 10 Cultural Codes from Around the World(世界各地の10の文化的規範)、Guide to Stepping Outside Your Comfort Zone(あなたの安全地帯から踏み出す方法)を無料配布中。

シーラ・ピスマン(Sheila Pisman)
ドイツの製薬会社メルツの国際マーケティング・ローテーション・プログラム所属。マーストリヒト大学で国際ビジネスの修士号を取得。前職は、ブランダイス大学インターナショナル・ビジネス・スクールの客員研究員。