リーダーシップを実践している経営幹部候補人材へのプログラム展開を

 これまでの留職プログラムは、大企業の若手人材のリーダーシップ養成の登竜門として導入されることが多かった。

 今回の学生起業家派遣の成果を踏まえて、今後は、既にリーダーシップを既に高いステージで発揮している大企業の経営幹部候補人材や、ベンチャー企業の経営者への展開にも挑戦していきたいと考えている。

 実は、留職に加え、部課長層が国内外で社会課題を体感するフィールドスタディも実施しているが、このプログラムも非常に高い関心を集めており、私たちとしても手ごたえを掴んでいるところだ。

 新しい時代のリーダーのあり方そのものを切り拓くリーダーシップを育むプログラムへ

 もう一点、学生起業家と企業派遣者の留職プログラムの比較を行う中で考えさせられたのが、これからの時代に求められるリーダーシップのあり方だ。AI(人工知能)の進化によって、今ある職業の多くが消えていくと予測されている時代に求められるリーダーシップの形はどのようなものなのだろうか。

 クロスフィールズのリーダーシップ・アセスメントでは、「ゴールを描く力」「対話する力」「巻き込む力」「挑戦する力」「やりきる力」「現地の社会課題を理解する力」「社会の未来と組織の未来を切り拓く力」の7つの力をリーダーシップの構成要素と定義している。

 しかし、これからの時代に求められるリーダーシップは、果たしてこの7つで定義しきれるのだろうか。また、7項目はどれも等しく重要だろうか。それとも、項目によって、重要性に差が生まれているのだろうか。

 筆者の個人的な意見だが、ここまで先の見通せない時代には、もはや、ゴールやビジョンを描くことの重要性は相対的に低下するのではないか。

 ゴールを描いて周囲を巻き込んでいくリーダーシップではなく、ゴールが描けない中でも自ら一歩を踏み出し、新しい価値を自ら生み出す、その生み出した価値が切り拓いた未来によって、周囲を巻き込んでいく、そんなリーダーシップがこれからの時代に求められるのではないかと感じている。こうした点については、いつか、どこかで、是非読者の皆様と議論したい。

 留職プログラムが、これからの時代に求められるリーダーシップを育むプログラムに進化し続けられるよう、クロスフィールズは、常に新しい挑戦を続けていきたい。

新しいリーダーシップ開発論
[連載第1回]「留職プログラム」が切り拓くリーダーシップ
[連載第2回]「異質」かつ「成果が厳しく求められる」環境で育む強烈な原体験
[連載第3回]マインドセットの大転換「自分事化」
[連載第4回]「留職プログラム」の成否を握るキーファクターは何か
[連載第5回]「ペルソナ」ごとのリーダーシップ成長のトリガー
[連載第6回]明暗が分かれる帰国後の留職者
[連載第7回]「自分事化」を阻む組織要因と解決策

 

中山 慎太郎
NPO法人 クロスフィールズ 副代表。2006年一橋大学法学部卒業。国際協力銀行、国際協力機構、三菱商事株式会社にて特に中南米のインフラ開発に従事後、2014年にクロスフィールズ参画。留職プログラムのプロジェクトマネージャ―、留職事業の事業統括を経て、経営管理部門と法人営業部門の事業統括を務める。2018年6月に副代表に就任。

小沼 大地
NPO法人 クロスフィールズ 共同創業者・代表理事。一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアで活動した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年5月、NPO法人クロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出、2016年に『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』の「未来をつくるU-40経営者20人」に選出される。国際協力NGOセンター(JANIC)の理事、新公益連盟の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)。


NPO法人クロスフィールズ
2011年5月創業。「すべての人が「働くこと」を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界」「企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界」の実現をビジョンに掲げ、留職プログラムを旗艦事業として、国内外の社会課題の現場と企業の間に、枠を超えた橋を架ける様々なプログラムを展開、そこで生まれる挑戦への伴走を続けている。