CXOは、企業のCX部門とEX部門の総合力を高め、発揮させる責任者である。企業の中には、顧客体験を向上させる目的でCXOを設けたところもあるが、「体験責任者」は本来、CXとEXの両部門を率い、相乗効果を生む連携を築く役割を担うべきだ。したがって、ここでいうCXOは、顧客体験と従業員体験両方の取り組みを推進する責務を負う。
CXとEXのリーダーが異なる場合、どちらも経営チームの一員だったとしても、CXとEXが分断される可能性がある。
実を言うと、従業員は、自分が体験したことしか顧客に提供できないし、提供しようとも思わない。たとえば、企業がITを駆使して、継ぎ目のない直感的なCXを提供したいと考えても、従業員に対してふだん、紙ベースでのんびりとお役所仕事をしている企業には実現不可能だ。しかし、CXとEXを連動させ、従業員が望ましいCXを身をもって体験すれば、その体験を人がどう感じるか、それがどれほど大事なことかを理解するようになり、次は自分たち自身の行動や意思決定を通して実現するようになる。
また、CXとEXを切り離した場合、リソースや上層部の関心をめぐって競争が起こる可能性がある。それは残念だが、予期できる。
そこで、1つの組織に統合するか、少なくとも一人のリーダーが両組織を兼任することで、両者のシナジー効果を生むことができる。たとえば、カスタマージャーニー作成ツールを使ってEXを設計し、社内コミュニケーションとカスタマーケアのプラットフォームをリンクさせ、従業員教育プログラムにならって顧客を啓蒙すれば、従業員のスキルアップとCXの向上を同時に行うことが可能だ。
具体的にどのような形になるのかというと、私が最近、ブランドと企業文化の統合と連動について書いた本のために実施した調査で、いくつかのパターンがあることがわかった。顧客中心、従業員中心の組織づくりを目指すCXOの役割は、以下の通りである。
・全従業員の顧客理解を深める。
・企業リーダーの従業員理解を深める。
・周到で秩序だった顧客体験、従業員体験の設計と提供を推進する。
・CXとEXの連動、技術上、その他の統合を説く。
・社内の戦略的意思決定において、顧客と従業員を代弁する。
・CXの従業員への影響、EXの顧客への影響、CXとEXの企業KPI(重要業績評価指標)への影響を測定する。
例として、アドビのドナ・モリスが、顧客・従業員体験担当副社長として果たしてきた役割を見てみよう。
モリスは、顧客・従業員リレーションを構成する3つの要素——注目、エンゲージメントと定着、育成——に焦点を絞った。そしてエンゲージメントを促進するために「リスニングステーション」を設置した。従業員はオンラインか、アドビの社内に実際に設置された場所へ行くと、顧客の声を直接聞き、自分が取ったアクションの成否を知ることができる。自社の顧客に対するより深い理解が従業員エンゲージメントを高めるだけでなく、従業員はその理解を基に、さらに顧客ニーズに応えるツールやソリューションを開発し、その結果として顧客エンゲージメントを高めた。
モリスはまた、すべての従業員を顧客と紐づける報酬制度を導入した。企業の収益とカスタマーサクセス(顧客の成功体験に関する指標)と顧客評価に基づいた、短期の金銭的インセンティブである。この制度によって、従業員の顧客体験への貢献がさらに実感できるようになったうえ、全員が共通のゴールに向かって努力することで、社内の連携とシナジー効果が生まれた。
CXとEXを一人のCXOの下で統合し、連動させることは、人間中心部門——社外の人間(顧客)と社内の人間(従業員)——にその価値を一元化することを意味する。
HBR.org原文:Why Every Company Needs a Chief Experience Officer, June 13, 2019.
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デニス・リー・ヨーン(Denise Lee Yohn)
ブランドの構築とポジショニングの第一人者。25年にわたり数々の世界的企業を支援。顧客企業にはソニー、日立、フリトレー、バーガーキング、ノーティカ、アシックス、ニューバランスなどがある。著書にWhat Great Brands Doなどがあり、最新刊はFUSION。