いま、伝統企業が破壊的変化の脅威にさらされている。何が変化を推し進めているのだろうか。多くの企業が、テクノロジーの進化に乗り遅れたことが原因だと捉えているが、そうではない。自社の事業が顧客のニーズを満たせていないことに原因がある。筆者は、カスタマー・バリュー・チェーン(CVC)を把握し、顧客の不満を解消していくことが重要だという。
私は8年にわたって、破壊的変化にさらされている最中だと訴える、有力企業を訪れてきた。それらは世界各地の20を超える業界に及ぶ。私は毎回、そのような既存企業の経営者らに同じ質問をする。「何が御社の事業を破壊しているのですか」
問いかけた相手が誰であれ、常に次のどちらかの答えが返ってきた。「Xというテクノロジーが当社の事業を破壊している」、または「Yというスタートアップが当社の事業を破壊している」である。
ところが、私の最新の調査分析によると、その考えは誤っている。破壊的変化を推し進めているのは、顧客なのだ。
テクノロジーが自社の事業を破壊しようとしていると経営者が考えるのは、よくあるシナリオだ。
この場合、彼らはそのテクノロジーを社内で開発しようとするか、外部から買う方法を見出そうとする。ゼネラルモーターズ(GM)やフォード・モーターのような大手自動車メーカーが、その好例だ。両社は、電気自動車と自動運転の技術を購入してから、自社で構築するために大金を費やした。
破壊の脅威がスタートアップから生じている場合、既存企業が当該企業の買収を試みることが多い――そのスタートアップの評価額が高すぎなければの話だが。また、そのスタートアップの進出を妨げる手段として、価格で競争しようとすることもある。私が見たほとんどのケースでは、このような対応では期待したほどの効果は出ていない。
買収の道をたどった一例として、米ヤフーを考えてみてほしい。かつての同社は検索エンジンの黎明期をリードする存在だったが、首位をグーグルに奪われた後、2位の座をマイクロソフトのBing(ビング)に明け渡した。
これに対応すべく、当時CEOとなったマリッサ・メイヤーは、関連技術とスタートアップを次々と買収して、王座を奪い返そうと目論んだ。2016年の時点で、メイヤーは53社ものハイテクスタートアップを買収し、23億から28億ドルの資金を投じ、配下の上級幹部らには無数の時間をM&Aのデュー・デリジェンス(事前詳細調査)に投じさせた。
最終的に、ヤフーはそれらのスタートアップのうち33社を閉鎖し、11社の製品を打ち切り、5社は統合に失敗し、そのままにしておいた。すべての買収先の中で、ヤフーが完全に統合したのは2社のみ、つまりタンブラーとブライトロールだけである。
2017年、成長不可能になったヤフーは、48億ドルでベライゾンに買収された。この金額は、かつての最高評価額の1000億ドルとは雲泥の差である(ベライゾンは現在、タンブラーの売却先を探していると報道されている)。
このような企業は、あることを見落としていたようだ。それは、最も一般的でよく見られる破壊のパターンは、顧客によって推し進められる、ということである。新たなテクノロジーや製品を採り入れたり、拒否したりする意思決定の背後にいるのは、顧客なのだ。大企業が顧客のニーズや要望を重視しようと決めれば、最終的にはデジタルによる破壊に、うまく対応できるようになる。