男性は「力強い」、女性は「家庭的」など、ある性別や文化を表す際には特定の言葉が用いられることが多い。その表現が事実に反していたとしても、言葉のイメージが先行することでステレオタイプが助長されることもある。筆者らがスタンフォード大学のMBAのケースを調査した結果、ステレオタイプな状況設定や言葉の使い方がされているものが少なくないことが判明した。


 偏見はしばしば、人々が選んで使う言葉によって助長される。

 たとえば、研究者が最近、膨大な文字データセットを分析したところ、1910年代には米国在住のアジア人は「野蛮(barbaric)」や「奇怪(monstrous)」という言葉で表現されることが多かった。しかし、いまでは「受け身的(passive)」や「繊細(sensitive)」などのほうが一般的である。

 偏った言葉の選択は、職場でも見られる。専門職の求人広告には男性的なステレオタイプの言葉が随所に使われている。スタンフォード大学のウィメンズ・リーダーシップ・イノベーション・ラボの研究によると、ステレオタイプはマネジャーによる勤務評定の書き方や能力評価での話し方にも影響を与える。

 このような傾向は、相応の結果を伴う。言葉の選択はしばしば、性別や人種、出身国、年齢その他の属性に関する事実に反したステレオタイプを助長し、そのステレオタイプが成功の指標と一致しない場合には不利を生じさせるのだ。

 これと同様に、我々はMBAのコースで教えている経験上、そこで使われている教材でも偏った言葉の選択とステレオタイプが生じているのではないかと疑問を抱いた。

 レスリー・シモンズとハーミニア・イバーラの研究によって、すでに次のことが明らかになっている。ビジネスのケーススタディで、女性が主人公のものは稀である(調査対象のたった9%)。のみならず、女性主人公が登場するのは主に「ピンクカラー」(女性らしい)の業界や職種で、通常はケーススタディ中の唯一の女性であり、男性主人公に比べて詳細に描写されていない。

 この研究の発表以来、研究者らは、女性を主人公に据えた多様なケーススタディの執筆に努めている(ハーバード・ビジネス・スクールのジェンダー・イニシアティブによるそのような事例集はこちら)。

 とはいえ、女性や他の非代表的集団に属する主人公の描かれ方が、時とともに変わったかどうか我々は気になった。さらに、執筆者がそうした主人公を描写する際、ステレオタイプな言葉を使っているか否かを検証したいと考えた。

 そこで我々は、スタンフォード大学のMBAで2015~2017年にコアカリキュラムの教材となった、249件のケーススタディを分析した。すると、シモンズとイバーラによる指摘と似た傾向を発見した。主人公が女性のケースは16%だけだったのである。

 次に、原文を分析した。助手たちが我々の指導の下、ケーススタディを読み、主人公、置かれた状況、文化的背景に関する描写を精査し、潜在的にステレオタイプな言葉のパターンを探した。その結果、執筆者がケース内で人物や状況を描写する際に、ステレオタイプに頼る方法が4通りあることがわかった。