古くなった優位性を捨てるのではなく
デジタルの力で強化する
――コロンビア大学ビジネススクールのリタ・マグレイス教授が、著書『競争優位の終焉』(THE END OF COMPETITIVE ADVANTAGE)で、競争優位を長期的に維持することができない時代においては、古くなった優位性からリソースを引き上げ、新たな優位性の確立に投資する。そのサイクルを柔軟かつ機動的に繰り返すしかないと指摘したのは、2013年のことです。それを可能にするテクノロジーの基盤が整ってきたということでしょうか。
牧岡 マグレイス教授の考え方とワイズ・ピボットの違いは、古くなった優位性を捨てるのではなく、圧倒的なコスト効率の向上によって強化し持続可能にするという点。そして、新たな成長領域の拡大を従来とはまったく違う時間軸で、つまり非常に短期間で実現するという点です。2013年の時点では使えなかったデジタルの力を、いま我々は活用することができるから、それが可能なのです。
例えば、山根が述べたように銀行は過去50年に渡って同じアーキテクチャーで基幹系システムをバージョンアップしてきました。巨費を投じて開発し続けてきたこのレガシーを捨て去って、新たな優位性の確立に投資するというのはリスクが大き過ぎます。
しかし、マイクロサービスアーキテクチャーで同じ機能を持った基幹系システムをクラウド上に構築できるとしたらどうでしょうか。既存の優位性を大きなリスクにさらすことなく、新たな優位性の確立に投資できるはずです。
山根 金融機関の基幹系システムは、最も堅牢で最もセキュリティが高く、機密性や可用性にも優れていなくてはなりません。だから、クラウドに移行するのは無理だと考えられてきましたが、いまではクラウド上でまったく遜色のないシステムを構築することが可能です。
しかも、システムにかかる負荷に応じて使用するコンピューティングリソースを柔軟に増やしたり、減らしたりすることもできます。それによって、コストは圧倒的に下がります。さらに、一部のアプリケーションに障害が起こったからといってシステム全体がダウンすることがないように設計することもできます。
ネットフリックスやスポティファイなども、そういうシステムのつくり方をしているのですが、金融の基幹系システムでも同じことができるのです。