この可能性を排除するために、従業員が無礼に扱われた「経験」と、彼ら自身が無礼な「振る舞いをした」ことを分ける、2つの実験を試みた。

 我々が教えるMBAのコースや、リンクトインなどのオンライン・フォーラムを活用して、現職のプロフェッショナルを募った。そして、自分たちが昇進してマネジャーになり、数週間部下たちの仕事ぶりを観察した後に、上司として部下たちを評価せよと言われた場合を想定するように、と参加者に依頼した。

 参加者にはその後、架空の従業員10人のプロフィールを見せて、慎重に彼らの勤務評定をするように依頼した。10人の従業員の中には、無礼な扱いを受けたこともあれば、無礼な態度を示したことのある人物もいた。そうした人物プロフィールの一つは、次のようなものである。

クリスはこの組織に約2年勤めており、職務経験が5年強ある。クリスは業績が芳しくない従業員のようだ。たまに遅刻して、必ずしも一生懸命働いているようではなく、仕事に関する知識も足りない。クリスは皮肉を言って周囲の人を不快にしたり、非難がましい目で人を見たりする。同僚に対して気難しく短気である。同僚たちは、通常だったらクリスに相談すべきときにそうしないことがあり、クリスに関する気に障るような冗談を言い、クリスなんてどうでもいいというような態度を示す。

 架空の従業員の中には、無礼な扱いを受けても、他人には無礼な態度を取らない人もいる。たとえば次のような人だ。

アレックスはこの会社に約2年勤めており、職務経験が6年ある。アレックスは、かなり仕事ができる社員のようだ。遅刻したことは一度もなく、物事に一生懸命取り組み、課せられた仕事の核心に関わる知識がある。周囲はアレックスが同僚に対して不適切な発言をしているのを目撃したことはなく、アレックスは他人に対して礼儀正しく親切のようである。しかし、同僚たちは、わざとアレックスの話をさえぎることが時々ある。アレックスの私用メールを読んだことが発覚した同僚もいるし、同僚たちはアレックスを見てバカにしたような表情を浮かべることがよくある。

 また、無礼な扱いをされたことがない人物も何人か入れた。

テイラーは職務経験が6年あり、約2年前に入社した。テイラーは並外れて優秀な業績を上げているようだ。時間通りに来て、熱心に仕事して、業務上の知識も持っている。テイラーは常にプロらしく他人に接するようで、他人に敵意を見せたり、にらんだりバカにして笑ったりしない。同僚はテイラーに礼儀正しく、尊厳や敬意をもって接しているようだ。

 データを集計したところ、この調査の参加者は、無礼な行動をしたのは被害者のほうだと見ていることがわかった。従業員の中に無礼な振る舞いを明らかにしなかった人(アレックスのように)を入れたことで、「何も悪いことをしていないときでさえ」被害者のほうに無礼な扱いを受けた責任がある、と捉えられていることも示せた。

 事態は、さらに悪くなる。従業員が優秀か(アレックスのように)、または業績が悪いか(クリスのように)に関する情報をはっきり出した場合にも、リーダーのバイアスが被害者の勤務評定にまで及んでいるかどうかも調べてみたら、まさにその通りだった。「実際の」職務遂行能力にかかわらず、無礼な振る舞いの被害者は、無礼に扱われない従業員より大幅に低く評価されたのである。

 勤務評定は、報酬や昇進に関する決定に重大な影響を及ぼすことが多い。したがって我々の調査結果によれば、職場での無礼な振る舞いの被害者は、他のいくつかの重要点でも悪影響を受けており、泣きっ面に蜂という状況に陥りかねない。