繁栄の時代から「変化の時代」へ

 1960年代に入ると、多くの経営評論家たちが、ITが企業に及ぼす影響について予測し始めた[注1]。人間の能力を超越した新しい科学や技術によって経営陣やミドル・マネジャーが被る影響について、あれこれ思いをめぐらせているのである。彼らが出した結論はそれぞれ異なるが、唯一一致しているのは、20年後においては、マネジャーの役割はまったく変わっているということである。

 私がここで取り上げたいのは「コンピュータはマネジャーを陳腐化させてしまうのか」という暗い話ではない。企業とマネジャーがこれから遭遇する大きな変化についてである。なぜなら、コンピュータはたしかに便利な分析ツールとはいえ、科学や技術は他のツールも生み出しており、未来のマネジャーにすれば、コンピュータはその一つにすぎないからだ。

 したがって、最先端技術がマネジャーに及ぼす影響を心配するよりも、より根源的な問題、すなわち未来の環境のなかでこの超強力なツールをどのように利用し、いかに企業の目標を達成するかについて考えるほうがよほど賢明である。

 企業の未来を占うといっても、すべてを一から予測するというわけではない。というのも、幸運なことに、企業の未来を決定する要素は、すでに存在しているからである。それどころか、その一部は何年も前から我々の目の前に存在している。

 要するに、80年代の企業の姿を予測するといっても、水晶玉をのぞいて、おぼろげな姿に目を凝らすというわけではなく、現状を分析し、その延長線上にあるものを見極めることが重要である。

 企業は環境に支配される。経営資源、売上げ、課題、チャンスを生み出すのが環境ならば、制約を課すのも環境であり、企業の命運を握っているのも環境である。したがって、80年代の企業について議論するには、まず80年代には、どのような環境要因が考えられるのかを予測しなければならない。それらは、80年代の企業のあり方を決める要素にほかならない。

(1)製品開発

 第2次世界大戦が終わって、はや20年が過ぎたが、この間、製品開発のスピードは加速する一方である。なぜなら、戦時中にさまざまな技術が蓄積され、また消費需要は抑圧されていたからだ。このような背景から、製品イノベーションによって競争と成長が促された。

 この結果、企業にはチャンスがもたらされたが、同時に悩ましい課題が突きつけられた。すなわち、新技術の利用法が考案され、次々に新しい市場が生み出される一方、優れた新製品が既存製品を駆逐し、また技術の陳腐化が起こり、必然的にR&Dに力を入れなければならなくなったのである。

 しかも、製品が利益を生み出す期間も短縮している。たとえば同じデュポンの製品でも、30年代に開発されたナイロンはいまなお堅調だが、デルリンはナイロンに劣らず画期的な発明だったにもかかわらず、わずか2、3年で衰退してしまった。

 製品開発が今後、企業にとって重要な意味を帯びていくことは、これまでR&Dに投じられた金額を見ても明らかである。46年には12億ドルだった民間投資は、61年には100億ドルに達した。