働きがいと幸福感の違い
ショーン・エイカーらの調査チームが行った最近の研究により、10人中9人が、より意義を感じられる仕事に就けるなら、生涯所得が一定割合減っても構わないと考えていることがわかった。それだけの人が、給料が下がっても意味があると思える仕事をしたいのである。
だが、もっと「意義」を、と言うとき、私たちは実際には何を求めているのだろうか。それは、幸福とはどう違うのだろうか。
哲学者、学者、芸術家、社会心理学者などは、何年も前からその疑問に答えようとしてきた。心理学者ロイ・バウマイスターらが実施した幸福と意味に関する調査によると、両者は5つの点で異なるという。
●欲しいものや必要なものを手に入れることとの関係
幸福は欲求が満たされることと相関するが、意味は相関しなかった。むしろバウマイスターが書いているように、「良い気分や悪い気分は意味を感じているかどうかに関係なく出現し、意味は状況が非常に厳しいときでも強く感じられる場合がある」。たとえばジョンは、CEOという地位によって得られる名声には惹かれたかもしれないが、その旨味はなくとも意義深いことをしたいという使命感のほうが、その欲求に勝っていた。
●時間枠
バウマイスターの調査によれば、幸福は「いま」に直接関係するが、意味は「過去、現在、未来を合わせてつくり上げた、筋道の通った物語からきているようだ」。ジョンのケースに当てはめると、CEOになれば当面の幸福は得られたかもしれないが、彼はその瞬発的な幸福感を捨てて、将来を見通した大きな展望や価値観を反映する何かを見つけようとしていた。
●対人関係
人とのつながりは、幸福と意味の両方にとって重要だが、相手との関係性によって、どのような充足感を得られるかがわかるという。バウマイスターによれば、人を助けることは(生きる)意味に通じ、人から助けられることは幸福につながるという。自分の能力を人のために発揮したいという望みが、ジョンにそのような役割を追求する気持ちにさせたのだろう。
●苦難
ストレス、争い、葛藤は、幸福感を減少させるが、「きわめて意味深い人生を送るためには不可欠なようだ」とバウマイスターはいう。ジョンは、やりがいのある仕事を見つけるチャンスを高めるために、CEO職ではなく、より険しい道を進む覚悟をしていた。
●個人のアイデンティティ
意味の源泉として重要なのは、自己表現行動・活動だが、そうした行動や活動は、幸福においては「ほとんど無関係」だ。ジョンが別の種類の仕事に惹かれるようになったのは、彼が大事だと思うことが変わったことの表れだった。