●辞め方を調査する
会社の辞め方には、前向きで建設的な辞め方から、後ろ向きで有害な辞め方まで7通りのタイプがあり、ほとんどの人が、そのうちのどれかに当てはまる。
・感謝の別れ:感謝の意を表し、協力的に辞める
・予告済み:辞める意思を前々から上司に伝えている
・型通り:標準的な手順を踏み、退職の理由を説明する
・形式的:規程通りの手順を踏むが、退職の理由は説明しない
・回避的:上司に直接ではなく間接的に伝えたり、それとなく伝わるようにしたりする
・ケンカ別れ:去り際に、迷惑行為を働く
・衝動的:何の事前告知もなく去る
これらのタイプには、その社員が「会社や上司からどのように扱われていたと感じていたか」が反映されていることが多い。したがって、事前にきちんと退職の意思を告げ、感謝して辞めていく社員が多ければ、それはその企業が職場として健全である証だと言えるかもしれない。反対に、関係を断つようにして辞めていく社員が傾向として多ければ、こうした破壊的な辞め方をされる原因を調べる必要を示唆していると受け止めるべきだ。
社員の離職を組織の学習と改善のきっかけにするために最初にすべきことは、退職者を上記のタイプに分類し、定期的に傾向を確認することである。そして何らかのパターンが見つかったら、問題の原因を探る。
社内規程に従って辞める(型通りの)社員が多いのか、それとも辞め方にばらつきがあるのか。断わりなく辞めていく人が多いのは、特定の部署や社員か。早くから退社を予告している部下ばかりがいる上司はいないか。退職者のタイプを細かく分析すると、問題領域と救いのあるポイントがはっきりと見えてくる。
●近しかった社員の話を聞く
辞める本人は、正直に理由を話してくれるとは限らないが、その同僚や仕事仲間は、会社が良くなるなら自分が知っていることを話してもいい、と思っている場合が多い。そのため、辞めた社員と近い関係にあった同僚とざっくばらんに話し合いを持てば、離職の動機を聞き出せる可能性がある。
この方法にはもう1つ利点がある。それは、仲間が辞めて失望や混乱を感じている残された社員にも、その思いや意見を吐き出せる場があればストレス緩和になるという点だ。
もちろん社員の中には、会社は自分に友人を裏切らせ、友人のプライバシーに関わることを話させようとしている、と受け取る人もいる。そのため、このようなヒアリングは緊張関係に発展する可能性があることを覚えておきたい。参加は強制ではなく、求めている情報は、残された従業員の体験と会社のパフォーマンスの向上のみを目的としていることをはっきりと伝えよう。
この方法は、マネジャーが部下と良好な関係を築いているときに最も効果を発揮しやすい。部下は自分や友人が罰せられる心配がないため、安心して話ができる。同様に、マネジャーが部下の意見に耳を傾け、それに基づいて行動を起こす習慣がある場合、建設的な効果を得られる可能性が高い。
●退職後の行動からヒントを得る
これは、人事担当者が社員のその後を追跡することにより可能だ。
たとえば、修士号や博士号を取得するために学校に戻る社員が多ければ、教育費支援制度などの導入によって社員を引き止められる可能性がある。育児のために辞める人が複数いるなら、ワーク・ファミリー・バランスに関する制度を改善して、健全なワーク・ライフ・バランスを提供できるようにする。
特定のライバル企業に転職している傾向があれば、その会社の企業文化、教育プログラム、報酬、福利厚生などをチェックして、その会社に社員が流出する原因を突き止めるべきなのは間違いない。
マネジャーや人事担当者にとって、「辞めます」の言葉を聞くのはあまり愉快なことではないが、その苦悶の中で掘り起こした「事実」に基づき、離職の原因や性質を見極めることから、会社にとって価値ある知識が生まれる。
今度、社員に辞めたいと言われたときには、失われる人的資本の穴埋めや退職によるダメージの最小化に注力するのではなく、どのタイプの辞め方かを見定め、データを集めて離職の理由を理解し、それが会社にとって何を意味し、何を示唆しているのかを考える機会にする。どれほど手痛い社員の離職も、学習機会として活かし続ければ、マネジャーや会社が向上し続ける糧になる。
HBR.org原文:Do You Really Know Why Employees Leave Your Company? July 31, 2019.
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アンソニー C. クロッツ(Anthony C. Klotz)
テキサスA&M大学メイズ・ビジネス・スクール経営学准教授
マーク C. ボリノ(Mark C. Bolino)
オクラホマ大学プライス・カレッジ・オブ・ビジネスのデイビッド L. ボレン記念講座教授、およびマイケル F. プライス記念国際経営学講座主任。