●全社レベルのソーシャルネットワーキング
法人向けのSNSは、社員同士がつながり、アイデアを共有するための重要な手段である。
マイクロソフトでは、ナデラや他の幹部はYammer(ヤマー)を通じて従業員と交流し、耳を傾けて、その意見や考えを学ぶ。ヤマーの「CEOコネクション」のページでは、社員はプロダクト戦略から福利厚生に至るまで、あらゆる話題について、質問を投げかけたり他の社員と交流したりできる。これが共同体意識を高め、社員と幹部の間に直接のつながりを築くのに役立っている。
マイクロソフトでは、自社のソーシャルネットワーク上の質問をリアルタイムでモニタリングして、幹部が頻繁に、直接質問に答えるという積極的なアプローチを取っている。このようにバーチャルでの会話に参加することで、幹部は迅速かつ広範囲に対応できると同時に、毎日社員の懸念や会話について貴重な学びを得ることができる。
幹部が会話に途中から参加して、自分たちの視点を提供できるというのは、アンケート調査のような従来型の企業内コミュニケーションのやり方にはない、非常に重要な利点である。マイクロソフトの幹部は同じオフィス内の人たちとのみ交わるのではなく、地球の反対側にいる社員とも、時差を超え、異なるスケジュールを調整して直接やり取りができるわけだ。
●日々のパルスサーベイ(簡易的な意識調査)
毎日、少数のマイクロソフト社員たちがサンプルとなり、デイリー・パルスと呼ばれるアンケートを受け取る。人事部が主導するデイリー・パルスは、社員が自社とその文化について、およびその他のタイムリーな話題に関してどう感じているかを集計する。このアンケートは、結果を簡単に分析できるよう緻密に作成されている。
デイリー・パルスは、約20の主要な質問と、最大5つの組織別の質問(経営執行チームの必要に応じてのもの)で構成されている。これに加え、特定の話題に関する社員のセンチメント(心情、意識)を知るための自由回答形式の質問があり、その内容は毎月入れ替わる。
たとえば「マイクロソフトは1年前と比べ、どのような点で異なると思いますか」「あなたの仕事でのパフォーマンス向上にもつながる事項として、経営陣に提案したい最も重要な改革は何ですか」といった質問が含まれる。タイムリーな質問を追加できる柔軟性があるので、会社の買収や組織の大改革、その他のさまざまな変更を社内で実施する際に、社員のセンチメントをより定期的に知ることができるのだ。
●毎月のライブイベント
マイクロソフトは毎月、社員との対話集会を開いており、会社の優先事項や進捗状況、企業文化について公開で話し合う。このミーティングは世界各地の社員のためにライブ配信され、時差のある地域にいる社員はオンデマンドでも視聴できる。
ナデラは経営陣とともに、その月の最新情報を提供し、参加者からの直接の質問、およびヤマーのCEOコネクションのページからの質問に答える。この機会を通じて、ナデラは事業、業界、社会を含む、さまざまな領域にわたってみずからの考えを話すことができ、社員は自分たちにとって重要なテーマを提起することができる。
このイベントの最中に、社員の関与度が測定され、彼らのリアルタイムでのセンチメントを把握できる。イベントが終わるとヤマーのページが更新され、イベントの内容について検索できる目次と、重要な場面を捉えた短い動画が表示される。これにより、経営陣は優先事項を強調することができるのだ。
●成長思考の実践者を取り上げたビデオシリーズ
ナデラは、マイクロソフトを「何でも知っている」会社ではなく、「何でも学ぶ」会社にしたいと述べたことがある。
彼はこの野心を実現させるために、成長思考(グロース・マインドセット)を持って仕事に取り組んでいる個人やチームに焦点を当てたビデオシリーズを主催している。その目的は、学び続ける組織へと変わる流れを形づくり、会話を活性化させ、社員に自身の学んでいることを話すように促すことである。
マイクロソフトはインフルエンサー・モデルを使って、これらの動画が多くの人の目に触れるようにしている。つまり、動画は毎月、テーマに応じて関連するグループに直接メールでシェアされる。
たとえば最近の動画には、社内インキュベーターであるマイクロソフト・ガレージで誕生したプロジェクト、「Ink to Code」(手書きのスケッチをコードに変換するアプリ)を紹介したものがある。その動画は、ガレージと制作者の配布グループにシェアされた。マイクロソフトには特定の興味分野ごとに数百もの配布グループのリストがあり、自主参加型のコミュニティであるこれらのグループは、ターゲットを絞った情報伝達に役立つ。
しかし、どんなプロジェクトでも、長期にわたって人々の関与を継続させるのは難しい。「発展的な」エディトリアル・カレンダー――変更可能で、社員にサプライズを提供し、ニーズに応えることができるもの――によって、コンテンツをカレンダー形式で管理することが、長期的な成功には不可欠である。
マイクロソフトのこうした経験を見ると、同社がどんなテクノロジーを利用しているのかがわかるだけでなく、その根底にある動機――世界中の人々とより深くつながり、より豊かにすること――が刺激的なイメージとなって伝わってくる。テクノロジーを有効活用して幅広く人々とつながることは、21世紀のリーダーシップの基盤である。
HBR.org原文:How Microsoft Builds a Sense of Community Among 144,000 Employees, August 28, 2019.
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ラスムス・フーガード(Rasmus Hougaard)
グローバルなリーダーシップと組織の発展を支援する企業、ポテンシャル・プロジェクトの創設者兼マネージングディレクター。クライアントには、マイクロソフト、アクセンチュア、シスコほか、数百の組織がある。The Mind of the Leader(未訳)共著者。

ジャクリーン・カーター(Jacqueline Carter)
ポテンシャル・プロジェクトのパートナー兼北米ディレクター。ラスムス・フーガードとの共著に、One Second AheadとThe Mind of the Leader(以上、未訳)がある。

キャサリン・ホーガン(Kathleen Hogan)
マイクロソフト人事部門の最高人材責任者兼エグゼクティブ・バイスプレジデント。