(1)この候補者には高い業績を上げて貢献するスキルがあるのか、それとも有能なリーダーとなるスキルがあるのか

 個々人の貢献者としての業績レベルは、主に能力と好感度、やる気で測定される。一方、リーダーには、より幅広い人格的特性が求められる。高潔であること、ナルシシズム反社会的傾向といったマイナスの属性に起因するネガティブな言動を取らないこと、などが求められる。

 このように、2つのスキルセットは大きく異なる。だからこそ、偉大な選手が凡庸な監督になり(あるいはその逆もある)、高い業績を上げた人が、しばしばリーダーとして失敗するのである。

 成功を収めている営業担当者やソフトウェア開発者、証券マンが、ずば抜けた専門スキルと知識、自制心、自己管理能力の持ち主であることは間違いない。しかし、こうしたスキルで、個人的な目標よりもチームのために協力するようメンバーを動かすことができるだろうか。おそらく難しいだろう。

 信頼構築のために、リーダーにはある程度の専門的知識は必要だが、1つの特定領域を精通しすぎていることが障害となる場合もある。何年もの経験によって固定化したマインドセットや狭い視野が、じゃまになるからだ。

 だが、優れたリーダーはいかに豊富な経験の持ち主でも、常にオープンなマインドセットで適応し続ける。常に学ぶ姿勢があるのでリーダーとして成功するのである。

 このことは実際に多くの場面で、特に営業の領域で証明されている。

 200社以上を対象にした最近の学術研究では、営業担当者としての業績と営業部門のマネジャーとしての業績は反比例することがわかった。もし営業実績がトップの社員をマネジャーに昇進させると、2つの問題が生じることになる。トップの営業担当を失い、出来の悪いマネジャーを得るからだ。

(2)この候補者の業績評価を本当に信用できるか

 社員の業績はたいてい、1人の直属の上司による主観的評価である。このような業績評価は、バイアス組織内の利害関係上司と良好な関係を構築する能力による影響を受けやすい。同僚による評価やネットワーク指向の人事評価が増えているものの、まだ始まったばかりである。そのため、業績評価は想定しているほど信頼できないおそれがある。

 業績が同じにもかかわらず、男性よりも女性の昇進が少ない傾向にある理由も、ここにありそうだ。実際の貢献度は最低レベルの人を多くの組織がリーダーへと昇進させる理由は、その人が「よい印象を与えられる」ためである。

 自社の人事評価が本当に信頼できるかどうか自問してみて、その答えが「ノー」だったら、自社におけるよいリーダーシップとはどのようなものか、考えることに時間をかけてほしい。

 優れた結果に導くリーダーを探しているのか。人々を結束させるリーダーなのか。他人の話に耳を傾け、人を育てられるリーダーなのか。あるいは、人とつながり、革新を起こし、事業を進化させるリーダーを求めているのか。

 企業にはそれぞれ、異なる時期に、異なるタイプのリーダーが必要である。現在の職務で業績を上げている人物が、自社の当面の目標を達成すべく貢献できる適任者とは限らない。

(3)前向きに見ているか、それとも後ろ向きに見ているか

 優れたリーダーを選ぶ秘訣とは、将来の働きを予測することであり、過去の業績に報いることではない。

 ますます複雑化、不安定化し、変化していく中でチームを率いることのできる人材をどうやって見出すかという問題に、あらゆる組織が頭を悩ませている。優れたリーダーになれるのは、過去に成功した実績のある人や現在成功している人とはかなり異なるプロフィールの持ち主かもしれない。

 企業文化にぴったり適合していることだけを基準にして昇進させるのは避けたほうがよい。よかれと思っての選択でも、考え方の多様性に欠く、時代遅れであるリーダーシップモデルに至ることが多いからだ。

 今日の変化し続ける世界において、周囲を取り巻くテクノロジーの進化と同じスピードで成長することが企業にも期待される。企業モデルは常に変革しなければならない。過去にうまくいったことや現在うまくいっていることが、将来はまったく機能しないかもしれない。

 したがって、企業は既成概念の枠外で考えることに慣れる必要がある。つまり、「はみ出し者」や「違う考え方の持ち主」を受け入れ、リーダーの地位に就けるようにするのである。そのような人々を支援し、能力を発揮できるように時間を与えるべきだ。これが、リーダーシップ・パイプライン(体系的なリーダー育成の連鎖)を強化する方法の一つである。

 さらに、「時期尚早」と思われる人々についても検討する時間を設け、彼らの野心や評判、企業に対する情熱を元に考えてみるべきである。過去の実績は一番でなくても、最年少で最も機敏で、最も自信にあふれている人物が素晴らしいリーダーになるケースは少なくない。

 マーク・ザッカーバーグは、いかなる評価基準に照らしてもここ数十年で最も成功しているCEOの一人だが、フェイスブック創業時に実務経験は皆無に等しかった。スティーブ・ジョブスはアップルの前に大企業を経営した経験がなかったが、彼には洞察力があり、人脈があり、アップルを誰もがよく知る有名会社へと導く力があった。

 いまこそ、リーダーシップに関する概念を再考するときである。

「最も適性のある人材を昇進させる」という従来の枠を越え、「会社をゴールに到達させてくれる人材は誰か」と考え始めることで、あなたの会社は繁栄するだろう。換言すれば、高い業績の持ち主という点だけではなく、高い潜在力を秘めた人材の登用を考え始めよう。


HBR.org原文:Hire Leaders for What They Can Do, Not What They Have Done, August 27, 2019.

■こちらの記事もおすすめします
男性リーダーが女性の優れたスポンサーやメンターになる方法
デジタルトランスフォーメーションを「専門家」に任せてはいけない
DHBR2019年10月号「あなたは『専門性の罠』に陥っていないか」