企業がこのような課題に対処し、事業へのリスクを緩和するために――そして何より、倫理的な雇用慣行を取り入れるためには――どうすればよいのか。労働力の全体または一部をアルゴリズムで管理する企業に、筆者らは以下を提案したい。
(1)情報を共有する
理論的には、アルゴリズムによるマネジメントは透明性を高めることができるはずだ。なぜなら、働き手を管理する学習アルゴリズムにも、経営上層部の戦略目標に沿った一連のルールと手順が反映されているからである。
アルゴリズム自体を働き手と共有することはできなくても、関連するデータ、およびインプットされた目標ならば、経営陣は開示できるはずであり、そうしなければならない。
(2)フィードバックを募る
アルゴリズムから運転手への一方向的な指示に対し、バランスを取るために、企業は彼らを民主的な形で意思決定に参加させる方法を見出すべきである。たとえば、業務に関する社内規定について議論・交渉を行う委員会や評議会に、参加してもらうのもよい。アルゴリズム主導のシステムの設計をめぐる議論に、働き手を積極的に関与させることは、より意欲的で支援的な労働力基盤の構築に大きく貢献する。
(3)人間同士の触れ合いを築く
人は人を必要とする。組織は公式に、助け合いのコミュニティを設けるべきだ。つまり、働き手が帰属意識を感じることができ、社会的つながりを築ける場である。マネジメントに人間的な要素を加えることで、「自分たちは機械のように扱われている」という働き手の心情を和らげることができる。
例として、筆者らの調査対象となった一部のウーバー運転手らは、ニューヨークの配車サービス会社ジュノ(2017年に同業のゲットが買収)について、好意的に語った。同社は創業間もない頃から、人間の手による広範なカスタマーサポート体制を導入しており、このシステムを通じて、運転手の抱える疑問や問題に対しても丁寧な支援を提供している。
(4)信頼を築く
働き手の福祉の増進に向けて福利厚生を取り入れることは、自社をより人間的な組織に変え、顔のないアルゴリズムに管理される従業員の怒りを、和らげるための第一歩となりうる。病気時の経済的支援、病欠手当や産休制度の充実化などだ。
世界各地の規制当局はすでに、アルゴリズムに管理される働き手に恩恵をもたらすべく、上記のいくつかをめぐる規制の実施を目指している。一例として2017年の英国の裁判では、ウーバーは運転手に最低賃金、病欠手当、有給休暇手当を支給する義務がある、という判断が下された。
テクノロジーの急激な発展、そして企業にとっての魅力的な経済的メリットを踏まえると、アルゴリズムによるマネジメントは今後数年でますます普及するものと思われる。より多くの企業がこの方法で労働力を管理し、その中核製品やサービスを成り立たせている働き手たちの怒りを買うようになれば、本稿で挙げた対策を会社側が実行する義務は、いっそう大きくなっていくだろう。
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マレイケ・モールマン(Mareike Möhlmann)
英国のウォーリック・ビジネス・スクール助教授。前職はニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスの博士研究員。
オラ・ヘンフリッドソン(Ola Henfridsson)
マイアミ・ビジネス・スクール教授。ビジネステクノロジーを担当。前職はウォーリック・ビジネス・スクールの教授および情報システムグループ担当ヘッド。