表層的な取組みがもたらす3つの問題

 こうした企業のSDGsへの表層的な動きによってもたらされる問題は、3つある。

 1つ目は、このままではSDGsを2030年に達成するのは難しいということだ。SDGsは、持続的に安全に社会が繁栄することを目指していて、企業に将来の健全なる消費者をもたらすこととなる。ということは、達成ができなければ、企業活動を行う環境が脅威にさらされることを意味する。9月下旬の国連総会でも、SDGsの進捗の遅れに対する危機感が各国首脳陣の間で共有された。

 2つ目は、表層的にSDGsに貢献していると広報することは、世界では「SDGs ウォッシング」と称され、市民社会やNPOからバッシングを受けるリスクがある。たとえば、2018年に、海外のNGOが28団体合同で、石炭事業への融資を行う金融機関をリストアップし、日本の3メガバンクがトップ4にランクインしてしまった(その後、この3メガバンクとも、石炭火力発電への投融資を見直すことを表明)。

 3つ目には、イノベーションを起こす機会を逃すことだ。SDGsが掲げる目標は、極めて高いものなので、従来の取組みの延長線上ではとても達成できない。そこで、米国のケネディ大統領のアポロ計画にちなんだ、壮大な目標をまず掲げ、それに必要なイノベーションを起こしていく「ムーンショット」というやり方が必要だとされている。企業も、SDGsに挑む際には、思い切った理想の状態を目標として掲げ、革新的な技術やビジネスモデルを追求するべきである。

 真のSDGs経営とは、SDGs達成のために、社会における自社のパーパス(存在意義)を再定義し、自社の本業を含む全ての事業を再編したり組み立て直したりすることである。好事例としては、バイオソリューション企業のノボザイムズ(本社:ノルウェー)がある。ノボザイムズの経営陣は、SDGsを活用して製品開発のパイプラインや戦略的施策の優先順位付けを行い、SDGs目標の達成に寄与するバイオ技術の開発に成功した。

 もし日本企業が、そこまでするのはハードルが高いと考えるのであれば、CSV(共有価値の創造)事業を立ち上げることから始めてみてはどうだろうか。CSVは、2011年にFSGの創設者であるマイケル・ポーター氏とマーク・クレマー氏が提唱した。自社の事業活動を通して、経済価値を上げると同時に、社会価値を創出する方法論である。今日であれば、その実現すべき社会価値がSDGsの達成に寄与するものであるべきだ。

 CSVの分野で、日本企業は世界においてどのような位置づけだろうか。FSGのCSV推進機関であるShared Value Initiative(共有価値イニシアチブ)が、フォーチュン誌と共同で、2015年来毎年、優れたCSV事業を行う50社を世界中の企業の中から選出している。日本企業はといえば、2015年は1社(トヨタ自動車)、2016年は2社(伊藤園、パナソニック)、2017年は1社(トヨタ自動車)、2018年は1社(トヨタ自動車)、2019年は1社(NTT)が選出された。この5年間合計で選出された192社のうち日本企業は、以上の4社に過ぎず、存在感は薄い。

 ただし、3回も選出されているトヨタ自動車は、日本企業の1つのモデルとなろう。2007年に、当時の社長の渡辺捷昭氏が「走れば走るほど空気がきれになる車を開発しろ」と社内に檄を飛ばしたと報じられた(日本経済新聞2007年4月2日)。これは、ムーンショット的な言動といえよう。そして、現在、普及に向けた課題は多いものの、MIRAIに代表されるFCV(燃料電池車)を開発し発売していることから、トヨタはすでに実現に向け踏み出している。

 また、トヨタ自動車ノースアメリカのソーシャルイノベーション・チームは2014年、FSGと共同で、主要なビジネス目標とソーシャルインパクトの創出を両立させる戦略を立案した。トヨタが掲げる2020グローバルビジョンでは、「人々を安全・安心に運び、心までも動かす。そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。それが、未来のモビリティ社会をリードする」と謳っている。

 その具現化のために、チームは、2つの分野に焦点をあてた。1つは、パーソナルモビリティで、障碍者や高齢者ならびにその介護者に対して、安価な移動手段を提供すること、そしてもう1つはグリーンモビリティで、特に低所得者層の地域にて、法律が定める以上の環境水準をクリアできる移動手段を提供することである。