まず、現実のある重要な結果をもたらす場面――ピッチコンテスト――で、考えを変えなかったらどうなるかを調査した。
その結果、起業家の76%が相対する証拠を示されても考えを改めず、事前調査の結果同様、起業家には一般的に、自分の立場を譲らない傾向があることがわかった。この傾向は残念ながら、本人たちに不利益に働いた。考えを変えた起業家のほうが、結果的に、コンテストの最終ラウンドに進出する確率が6倍近く高かった。
次は実験室に場所を移し、この結果を招いた要因を探るための実験を行った。被験者は、起業家を評価する投資家の役目を演じ、起業家役の半数は自分の立場と矛盾する証拠を示されて妥協し、残りの半数は元の立場を固持した。
すると実際のコンテストで見られた結果と同じように、被験者は、元の立場を固持した起業家よりも、考えを変えた起業家を次のラウンドに進ませるべきだと判断した。また、考え直した起業家には自信が欠如しているが、知性があると被験者は見なしていた。この結果から、少なくとも起業家に関しては、知性があるように見せることが最も肝心であるということが言える。
しかし、さらに調査を進めると、強情なことがマイナスにならない場面もあることがわかった。たとえば、採用候補者を評価する実験では、知能を重視する仕事(エンジニアリングなど)の場合には、考えを改めた人を採用すべきだと判断する被験者が多かった。一方、自信が重要な仕事(人前で話すなど)では、甲乙がつかなかった。
これらの結果は、心変わりした人を見たときの私たちの反応が一定しない――どっちつかずだと否定的に見ることもあれば、慎重でよいと肯定するときもある――理由を解き明かすヒントになると考えている。すなわち、状況次第なのだ。
私たちがさまざまな心理学的理由で心変わりを嫌うことが、これまでの調査でわかっている。その理由の一つとして、印象管理の問題があるのではないかと我々は推測した。言い換えると、思い直すことを決めた本人は、自分が人からどう思われるかを正しく予測できているのだろうか。
別の調査で被験者にそれを予測させたところ、興味深いことに、被験者はかなり正確に予測できていた。具体的には、自分の意見に固執した場合には、「自信はあるが知性が欠如している」と思われるだろうと答えていた。
そうなると謎である。自分がどう見られるかがおおよそわかっているのに、なぜそれでも考えを変えようとしないのだろうか。それは、人前で考えを変えることが恥ずかしいから、というのが一つの答えだった。被験者が一人や少人数でいるときに考え直せる状況では、そうする可能性が高いことが最後の実験でわかったのだ。