(1)資金調達
まずは資金調達から見ていこう。M&Aターゲットの企業価値の適切な評価は、その買収が自社の株式評価にどのように影響するかを理解することから始まる。最終的には、そのデジタル企業の買収が、業界のデジタル化の流れに適応して勝つための戦略施策の一部だということを市場に知らしめることが目的である。
一方、買収ターゲットのデジタル企業は評価額が高い傾向があるため、株式を取引原資に当てるには限界がある。既存株主の株式価値が希薄化しすぎる可能性があるためだ。一方、リスクをはらむデジタル企業の買収を100%キャッシュで行うと、過大なのれんと将来の減損リスクを抱える可能性がある。
買収ターゲットの高いマルチプルによるリスクを軽減するには、支払い条件(アーンアウトをはじめとする後払いメカニズムなど)を考慮に入れつつ、資金調達のあらゆる選択肢を検討することが必要だ。最終的に自社が真のデジタル企業に進化できれば、将来のディールでは、もっと柔軟な資金調達方法を選択することができる。
テクノロジー企業のタレスは2016年3月、成長中のサイバーセキュリティ企業であるボーメトリックを、同社の売上高の5.7倍に相当する4億ドルで買収した。タレスはこの取引を通して、自社のポートフォリオを高成長事業にシフトさせることを市場に発信した。
サイバーセキュリティ分野における複数の買収を含むタレスの戦略は、今後、株価収益率(PER)や全体の企業価値評価に反映されて、グロース投資家の獲得に貢献するだろう。実際に、2016年12月末のタレスのPERは21.8倍で、航空防衛業界の平均18.9倍よりも15%割高な水準で取引されていた。