(2)デューデリジェンス
次に、デジタル企業のM&Aでは、デューデリジェンスの手法を変える必要がある。デジタル企業の適切な価値評価のためには、買い手は財務資料の不足を補いつつ、事業価値を実際の収益化に先立って評価する必要がある。さまざまなシナリオ下でターゲット企業のビジネスモデルが成功する可能性を検討し、過去ではなく将来の見込みを評価せねばならない。
これは、伝統的なデューデリジェンスの方法とはまったく異なる。優れた買い手の中には、外部の専門家によるコミュニティを構築・活用し、客観的な評価が難しい分野のデューデリジェンスでアドバイスを得る企業も存在する。
デューデリジェンスの出発点には、一つの根本的な問いがある。それは、「買い手自身がより強くなれるのか」、というものである。多くの経営陣が真っ先に考えるのは、買収が自社のビジネスの変革にどのように貢献するかということであって、自社の資金力、市場へのアクセス、技術、その他ケイパビリティを生かして、買収ターゲットの利益成長をどう加速できるかということではない。
幸いなことに、デジタル化のメリットも存在する。デューデリジェンスにおける伝統的な情報源を補完する、デジタルツールである。例えば、買収ターゲットのイメージや市場での認知度を査定できるツールを使う企業もある。また、セクターや企業のスクリーニングに関しては、データプロバイダーのCBインサイツが、企業プロファイル作成、競争状況や財務以外のパフォーマンス指標の分析を支援している。
個別企業のデューデリジェンスを行う際は、ウェブスクレイピング(ウェブサイトから情報を抽出すること)を用いることで、市場シェアや成長トレンドの分析が可能になる。例えば、特定のウェブサイトのトラフィック分析や、位置情報ウェブサイトに基づいた、競合企業との地理的カバレッジ比較などである。
シスモスが提供するソーシャルメディアサイトの分析サービスでは、ターゲット企業がどのように話題にのぼっているかを把握できる。クアッドアナリティクスが提供しているウェブスクレイピングは、複数の小売サイトから品揃えや価格のデータを抽出し、市場ダイナミクスの理解を助ける。また、グラスドアやリンクトインを利用してターゲット企業の文化を評価したり、オペレーティングモデルに関する知見を得たりすることもできるだろう。これは統合時に生じうる組織課題の対応にも役立つ。