(3)買収後の統合(PMI)

 そして、3つ目は買収後の統合(PMI)のアプローチである。デジタル企業の統合は、文化的な課題を含む深刻な問題である。買収した新しい組織を、価値を棄損せずに吸収するにはどうすればよいだろうか。

 当該ディールが、新しい顧客、商品、市場、チャネルを獲得して自社の事業範囲を拡大することを意図したものならば、必要なのは部分的統合だけかもしれない。つまり、技術、顧客の類似性、市場へのアクセス、その他のケイパビリティという点で、お互いに恩恵を受けられる領域を見極め、必要な範囲に限定して統合するということだ。

 マイクロソフトが2016年に260億ドルでリンクトインを買収した際、マイクロソフトのCEOは、リンクトインの独立性を確保する一方、自社のエンジニアには、リンクトインという新たな事業資産を活用したイノベーションを起こす可能性を探るよう指示した。

 一方、もし買い手がデジタル化によってビジネスモデルの変革を迫られており、当該領域で複数の買収を実行済みである場合は、買収した企業の完全統合が合理的かもしれない。統合に際しては、"逆統合"アプローチを検討する余地もある。これは、買収したデジタル企業を買い手の大組織に無理に適合させるのではなく、買収ターゲットの経営陣に、合併後の新会社の中でより大きな事業を任せたり、権限を与えたりする方法である。

 例えば、ピュブリシスは、サピエントの買収後、同社の幹部にデジタル関連事業おける大きな責任を与えた。さらにその数年後、ピュブリシスはサピエント・インサイドという社内ネットワークも立ち上げた。このネットワークは、サピエントのデジタル専門家が、業界最先端の手法やツールを従来型の広告代理店事業のチームに提供する機能を有する。結果として、ピュブリシスのデジタル事業は、売上全体の50%を占めるまでに成長し、2018年の目標値を上回っている。

 いずれの場合も、買い手企業は、デジタル企業のリーダーたちが、起業家から組織の管理職に変わっていくプロセスを慎重にサポートする必要がある。デジタル企業のリーダーたちが必ずしも大企業のマトリックス組織内での活動を得意とするとは限らず、買い手企業のリーダーによるコーチングやサポートを必要とする場合もある。

 また、買い手企業は、意思決定スピードの違いという、避けがたいギャップにも対処しなければならない。このことは、買い手企業側のガバナンスの修正、あるいは買収した事業(および既存の関連事業)向けの新たなガバナンスの仕組み作りが求められる場合もある。加えて、買い手企業は、デジタル企業のリスクテイク志向やマインドセットを自社内に広めることが必要になるかもしれない。

 デジタル・ディスラプションが今後も勢いを増すなか、あらゆる業界の企業がM&Aを利用するだろう。しかしそのためには、デジタル企業のM&Aに対応するためのスキルを進化させる必要がある。どの企業も、最初は「初心者」としての失敗は避けられない。しかし、優れた買い手は、フィードバックループを形成し、失敗から学び、一貫性のある再現可能なケイパビリティの改善・構築を進めていくだろう。


HBR.org原文:3 Ways M&A Is Different When You’re Acquiring a Digital Company, July 11, 2017.

■本稿を受けて、日本企業への示唆をまとめた記事はこちら(前編後編)。

 

アルノー・レロワ(Arnaud Leroi)
ベイン・アンド・カンパニーのパリオフィスのパートナー。同社の欧州・アフリカ・中東のM&Aプラクティスを率いている。