ジェフリーは、どのような言葉をかければよかったのか。過去のことを話すのは避け、その代わりに、次のような将来に関する質問を投げかけたらよかっただろう。「次に同じような状況になったら、どうしたいと思っているのか」

 このような将来に焦点を当てた質問であれば、トムは自分のミスを認め、そこから何を学んだかを示すことができる。また、トムの能力そのものは信頼していることを双方が確認できる。

 さらにジェフリーにとっては、トムの思考法で問題のあるパターンを指摘する好機となる。もちろん、単にトムをいま嫌な気持ちにさせるのではなく、彼が将来、よりよい決定を下すのに役立つような形で指摘するのだ。

 将来に焦点を当てた質問には、もう一つ利点がある。学習プロセスの1ステップを省けるので、より迅速かつ確実である点だ。つまり、ミスをおさらいした後に、(願わくは)学んだことを将来に応用するのではなく、ただちに応用に着手できる。

 ではなぜ、直感的にこのように対処できないのか。それは、その瞬間には、あなたがそう感じていないからだ。そのときに感じているのは怒りであり、多少の恐れや失望、苛立ちもあるかもしれない。そこで思わず口にしてしまう。「君は何を考えていたのか」

 このセリフを口にすることで、自分自身はスッキリする。そのような過去を向いた怒りの質問を投げかけるのは、その状況における感情の負荷が単に大きすぎるからである。そこで爆発してしまう。

 だが、それは優れたリーダーシップでも、優れたコミュニケーションでもない。私たちが部下を導き、部下とコミュニケーションをとるのは、自分のためではない。部下が向上するのを助けるためなのだ。

 このことが意味するのは、私たちは自分のやっかいな感情に支配されてしまわないよう、感情を抑える必要があるということだ。感情的になって、意図通りの影響力を及ぼせない、などということがないようにしたい。