CEOの権限の拠り所
企業は、自社の命運を分ける課題に対処したり厳しい決断を下したりするために、CEOに絶大な権限を与える。しかし、その権限を支えているのは大方のところ、CEOに大切な仕事を任せたいというステークホルダーの意思である。要するに、CEOに与えられる権限は、ステークホルダーがCEOに寄せる信頼の度合い次第で大きく変わるのだ。その信頼を裏切るリーダーは、いずれ追放されるだろう。
ウーバー・テクノロジーズ創業者のトラビス・カラニックを例に挙げよう。彼は軽率──時に非常識──な行動でたびたびひんしゅくを買った挙げ句、殺伐とした企業文化を生んだ責任を問われて、株主に退任を迫られた。カラニックだけではない。プライスウォーターハウスクーパースが先頃実施した調査によれば、2018年に倫理的問題が理由で解任されたCEOは、業績不振や取締役会との対立で解任されたCEOよりも多かった。
不正を働いた経営幹部を解任することは、企業にとって正当な行為に留まらない。いまや欠くべからざる行為である。何しろ、リーダーに対するステークホルダーの信頼が組織の業績を大きく左右するからである。全米大学体育協会(NCAA)が2000年に30のバスケットボールチームを対象に実施した調査では、チームメートに対する信頼度よりも、リーダーへの信頼度のほうが、試合に勝つうえで重要だということがわかった。「コーチを信頼している」チームは、そうでないチームよりも試合に勝った回数が7%多かった。また、勝利回数が最も多かったのは、コーチに対する信頼度が最も高いチームだった。