信頼への裏切りがもたらす企業価値の多大な損失
企業はステークホルダー、すなわち顧客、投資家、従業員、社会全体の多様なニーズに応えるために、すさまじい努力を傾注している。ところが、彼らとの実り多い関係に欠かせないはずの信頼には、十分な注意を払っていない。
組織論における信頼とは、「相手は善意であり、こちらの不利益になるような行動は取らないはずだ」と信じて、他者の行動に影響される状況を受け入れることを意味する。言わば「悪いようにはせず、むしろ力添えしてくれるだろう」と想定して、相手の影響力を受容するのである。「騙されたり、関係性を悪用されたりするおそれはないだろう」と考えて、他者と関わりを持とうと決意するのだ。しかし、信頼は諸刃の剣である。相手への警戒を解こうとすると、裏切られる可能性が生じる。しかも、企業がステークホルダーの信頼を裏切った例は枚挙に暇がない。
フェイスブックの例を考えてみよう。2018年4月にCEOのマーク・ザッカーバーグは連邦議会の公聴会に出席し、データ機密保護の取り組みに関する尋問を受けた。というのも、フェイスブックはユーザー8700万人の個人データを、政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカに提供し、そのデータが2016年の米国大統領選挙に際して、有権者への働きかけに使われたことが表沙汰になっていたからである。