●依存心の強い人を、弱い人でなく強い人として扱う

 残念ながら、アナとの会話のあと、ティムは自分の殻に引きこもり、他のメンバーと接しなくなった。同僚たちは彼が口をきこうとしないことに苛立ちつつも、彼の感情を害したことに罪悪感を覚え、腫れ物に触るように扱うようになった。このような状況が起きたら、対応するやり方がいくつかある。

 まず、もろさと過敏な感受性を区別するように努めること。この両者には重要な違いがある。

 感情的にもろい人は、簡単に感情のコントロールを失い、必死にそれを取り戻そうとする。近づきつつある締め切り、やることリストなど、さまざまな種類のストレス源が引き金になる。かたや過敏な感受性の持ち主は、支えてくれる人間関係に目を向けている。自分が望むような反応を他人から引き出すために、感情をコントロールしようとすることが多い。

 ティムはチームから支えを引き出す決意にあふれ、チームが支えきれなくなると沈黙を盾にした。同僚たちは彼の沈黙をもろさの表れだと勘違いしたが、実際のところは過敏な感受性の表れだった。長い間、チームが彼に寛大に接したことで、チームが変えてほしいと望んでいた彼の行動にむしろ拍車がかかっていたのだった。

 より適切な対処法は、同僚がティムの行動をどう受けとめているかを、彼に話すことだっただろう。もしあなたが似たような状況に直面したら、次のことを試してほしい。

 苦しんでいる部下との1対1の会話で、必要なことを他の人に頼めるようなチーム環境をつくりたいと、まずは伝える。このとき、時折心の安定を保つために支えが必要になるのは至って普通のことだが、人はそれぞれ違うし、各自に受け止められる限度があるのだと説明することが大切だ。

 相手の行動が負担になった経験を例示し、ニーズを満たすよりも健全な方法を探すように促す。助けを求める相手として、職場の外の友人や安全な場所で、感情について話すのを手助けしてくれる精神医療の専門家などが考えられるだろう。

 何を言うにせよ、相手のことを思いやり、相手との関係を大切にしていることをはっきり知らせる必要がある。そうすれば、あなたは味方であることを明らかにできる一方で、相手が見習うべき感情面で成熟した会話の手本を示すことができる。

 ●依存心の強い人に関する陰口を許してはいけない

 面と向かって話さずに、依存心の強い人を話題にする機会が多くなればなるほど、当人は孤独を感じ、依存心がいっそう強まる。

 ティムの場合は、同僚の腫れ物に触るような行動によってさらに自信をなくした。ティムによそよそしくしたり、陰で彼の話をしたりすることを容認しないと、アナがチームにはっきりと示したことは重要だった。

 過敏な感受性の持ち主は、他人の気を引こうとする自分の行動に対して、相手がどのくらい寛容かに鋭敏すぎることが多い。おそらく昔から、同じパターンを繰り返し、そのためにかつて他人を遠ざけてしまった経験もあるだろう。チームメンバーが依存心の強い人に関する不満をあなたや他のメンバーに話している場合、本人は自分が話題になっていることに気づいているはずだ。

 依存心の強い人が、内輪のジョークや他のメンバーと「ほらね」と言うように、顔を見合わせる対象になるときもある。このような示し合わせは芽のうちに摘み取ることが不可欠で、それにあなたが加わったり許容したりすることは厳禁である。

 チームメンバーの一人の欠点が他人のからかいや陰口の格好の標的になるということは、そのチームでは誰もが標的になりうるということだ。これ以上に信頼感や心理的な安定をあっという間に損ねるものはなく、最終的にはチーム全体が、他人に認められることが必要で感情的に不安定な人の集団と化す。

 もし陰口を聞いたら、あるいは誰かが本気で心配してあなたに近づいてきたら、最善の対処法は、依存心の強い同僚と直接話をするように、その人に告げることだ。どのようにフィードバックをするとよいかコーチングをすると申し出て、場合によっては会話のリハーサルもするといい。チームメンバーの不平不満に付き合ってしまうと、チーム内で感情の安定を保つために他人に依存するのを助長することになる。

 リーダーの仕事は、自分のチームメンバーの感情に関するニーズをポートフォーリオとして研究し、個々のメンバーの気質に合わせた戦略を練ることである。自分のニーズを満たそうと苦しんでいる人たちの精神面を、永遠に支える必要はない。

 とはいえ、状況を無視するのが正解ではない。心の安定を保つのに他人に依存するメンバーが、自分のニーズを認識し、それを満たす方法を自分で発見する手助けをすること、それが最善の対処法である。これを気配りを持ちつつ率直に実行できれば、その人はもちろん、その周囲にいるチーム全体を助けることになる。


HBR.org原文:4 Ways to Manage an Emotionally Needy Employee, September 27, 2019.

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ロン・カルッチ(Ron Carucci)
米コンサルティング会社ナバレント(Navalent)の共同創設者、マネージングパートナー。組織やリーダー、業界の変革を目指す企業のCEOと幹部を支援する。ベストセラー作家でもあり、著書に最新刊Rising to Power(未訳)など8冊がある。ツイッター(@RonCarrucci)でも発信している。ナバレントのサイトで、彼の電子書籍Leading Transformationを無料でダウンロードできる。