このようなビジネスモデルは、フェイスブックだけでなく、消費者向けインターネットビジネス全般に存在するものであり、消費者のエンゲージメントを最大化し、そのデジタルエクスペリエンスのあらゆる場所に広告を埋め込むことを中核に据えている。そのためにはユーザーの個人情報を集め、高度なアルゴリズムによってソーシャルフィードを調整し、正しいターゲットに正しい広告を流すことが重要になる。
そこでは、消費者の希望やニーズはほとんど考慮されておらず、消費者はもっぱら、プラットフォームがみずからの利益を最大化すると考えるコンテンツにさらされる。このようなプラクティスは負の外部性を生み出す。偽情報はその一つにすぎない。
一つ例を挙げよう。ロシアの政治工作員は、米国の選挙にダメージを与えるために、複数のインターネット・プラットフォームを利用した。これは、2016年の選挙戦にさまざまな形で見ることができた。ツイッターやフェイスブックの人種間緊張を煽る投稿や、特定の地域における投票を抑圧する投稿などだ。そのために利用された技術は、フェイスブックがトラフィック(と広告収入)を増やすために利用するオーディエンス・セグメンテーション技術やターゲティング技術とまったく同じである。
すでにFBIと国土安全保障省は、2020年の選挙でも、ロシア政府の工作員が「米国の有権者の投票意欲を失わせるか、投票を抑圧する試み」を密かに展開している可能性があると、米国の選挙当局に警告している。つまり悪質なアクターたちは、フェイスブックなどのプラットフォームが完成させたツールを使って、米国社会の小さな亀裂をいくつも見つけ、そこに大量の嘘を流し込むことによって、米国の政治構造を引き裂いているのだ。
フェイスブックの監視委員会がこうした問題に対処するためには、個人の投稿だけでなく、政治広告も管轄する必要がある。また、個別のコンテンツを削除するだけでなく、米国人の個人情報がロシアの工作員に流出するのを阻止するとともに、議論になるコンテンツを優先するアルゴリズムを、変更する権限が必要だ。
まさにこうしたメカニズムによって利益を上げている会社にとって、このような措置を取るのは難しいだろう。どこに限界を定めても、フェイスブックは常にそれを押し広げようとする。それはこのメカニズム以外に、莫大な利益を維持する方法を知らないからだ。
だとすれば現実問題として、現在の形の監視委員会には、フェイスブックが延々ともたらしてきた損害に対処することはできないだろう。
しかも監視委員会は、プラス面よりもマイナス面を多くもたらすかもしれない。ほかのインターネット企業も、同じような問題を緩和する努力をしている(ただし、まだ初期段階にあり、その有効性は未知数だ)。ユーチューブは最近ヘイトスピーチを削除したし、ツイッターも運用ルールを改正して、宗教団体を標的とする誹謗中傷を取り締まり始めた。これらはごく一例にすぎない。
それを考えると、フェイスブックの監視委員会は、会社としてのフェイスブックと、サービスとしてのフェイスブックの両方にとって、都合のいい存在にすぎなくなるのではないか。
フェイスブックは、ヘイトスピーチの定義を公的信頼性のある社外組織に委託するだけで、その組織が本当にフェイスブックを監視しているかのような印象を与えている。そうすれば、そのビジネスモデルそのものをターゲットとする、厳格な法規制を回避できるかもしれないからだ。