
AIによる仕事の自動化が進めば、人間を単純作業や危険な労働から解放することになり、その価値は計り知れない。一方、AIといえども人間が用いる以上、決定に偏りが生じる可能性は否定できない。それが意識的か無意識かは別にして、ジェンダーバイアスを助長することも十分に考えられる。本稿では、そうしたリスクを回避するための具体的な方法が示される。
本稿は、数ヵ月前に生まれたばかりの娘が寝ている間に書いている。
初めて親になった誰もがそうであるように、筆者も夫も、ここ数ヵ月は睡眠不足でもうろうとしながらも、新たな発見をしては喜び、この子は将来どんなふうになるのだろうと想像しては胸躍らせてきた。それは「仕事の未来」について助言することをなりわいとする筆者に、新たな視点と、少しばかりの恐怖をもたらしてきた。
人工知能(AI)によって自動化される仕事が増えるなか、娘が成人する頃の仕事の風景はどのようになっているのか。AIが組織にジェンダーバイアスをもたらさないようにする工夫はなされるのか。
最近の研究は、こうした疑問に答えを示し始めている。その内容は明るいものもあれば、暗いものもある。長期的には、女性は男性ほど雇用破壊の影響を受けないかもしれないが、AI開発に携わる女性が少ないことは、女性の採用や昇進に影響を与える恐れがある。
まず、AIが仕事に与える影響は、それぞれの職種の男女比によって異なって感じられるだろう。AIツールは、基本的に性別を無視して機能するが、多くの職種はもともと男女比に偏りがあるため、どちらかのジェンダーにとりわけ大きな影響を与えているように感じられるかもしれない。
実際、米労働統計局(BLS)の調べによると、現在米国で最も一般的な職種は、男女比に偏りがある。たとえば小中学校の教員や看護士、秘書、事務補助といった職種は、80%以上が女性だ。一方、トラック運転手や建設労働者といった職種は、90%以上が男性である。
一般に、AIツールによって自動化されるのは、職種全体ではなく、特定のタスクなので、男女に与える影響にも偏りが出るだろう。もちろん、男女比は時間が経てば変わるかもしれないが、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の予測によると、2020年代後半までは、自動化の影響を受けやすいのは女性だ。その理由は、事務職には女性が多いからである。米国では、秘書および事務アシスタント職の94%を女性が占める。この種のタスクは、自動アシスタントやスマートなメールソフト、スケジュール管理ソフト、資金管理ソフトによって大幅に効率化される可能性が高い。
だが中期的なスパンになると、状況は変わってくる。自動運転技術など新しいAI能力が進歩するにしたがい、2020年後半~2030年代半ばには、建設業や運送業など男性が多い業界で、より多くの雇用が失われるようになると予測されている。
これにより生まれる余剰人員の波が、組織のジェンダーバランスを突然悪化させることがないよう、事業主は事前に雇用の再分配について検討を進めておくべきだ。たとえば、雇用カットのペースを遅らせるといった措置を取れるかもしれない。また、管理職など雇用がより安定している職種では、男女比を平等にすることが一段と重要になるだろう。