
絶え間なく変化する顧客のニーズを満たすために、各企業は継続的な製品・サービスのイノベーションに挑み、その戦いに敗れた者たちは淘汰されていく。これは競争を語るうえで理想的な状態だろう。だが、実際にはそうなっていない。筆者らがOECDで実施した調査により、「スーパースター企業」だけが顧客に選ばれ、成長を続けている現状が示された。
ダイナミックな経済とはどんなものか、想像してみよう。
企業間で顧客をめぐる競争があり、新規参入者の脅威が常に存在する。企業が生き残るためには、絶えざるイノベーションと製品の品質向上を実現しながらも、価格を低く保つことが求められる。それができなければ、実現できる他社に取って代わられても不思議はない。リソースは常に、それを最も巧みに活用できる企業へと流れ続ける――。
どうやら人々は、この理想から遠ざかっているようだ。
危険な兆候はたくさんある。まず、生産性が伸び悩んでいる。トップ企業は順調に生産性を伸ばしているものの、それ以外の経済全般では生産性は振るわない。スタートアップの起業件数が減少している。より効率的な企業への人材流動も減っている。多くの産業で、売上げのシェアは少数の巨大企業にますます集中している。そして、企業のマークアップ率(付加利益率:製品1単位あたりの製造原価と売価の差。利ざや)が上昇している。
これらは、企業だけでなく労働者と消費者にとっても問題だ。生産性の鈍化は、賃金の停滞を意味する。トップ企業が他を引き離しているだけでなく、従業員の賃金も、トップ企業と平均的企業の間で大きな差がついている。少数の企業が儲けを増やすなか、利益は従業員よりも投資家に多く還元される。支配的な企業は、労働市場で雇用者としても支配的な存在となり、働き手の交渉力が減っている。
最後に重要な点として、もし競争の鈍化によって、企業にイノベーションを求めるプレッシャーが弱まれば、長期的な成長が阻害される。
ここまで挙げてきたエビデンスの多くは、米国経済に関するものである。これらの傾向は、米国の政策によって生じた米国固有のものだろうか。そして、特定の産業(ハイテクなど)に限られた傾向だろうか。それとも、より広い経済圏にも当てはまるのだろうか。