(1)非同期通信(タイムラグのあるコミュニケーション)を利用する

 メールを受け取ったとき、「都合のいい時間に返信しよう」と考えるのは悪いことではない。

 作業を中断されずに集中する時間が増えるというメリットに加え、非同期通信はよりよい意思決定をしやすくする。要求に応えるまでに時間をかけられるからだ。電話やテレビ電話の場合、リアルタイムで意思決定を下さなければならないが、メールでのコミュニケーションなら、答えを考えるのにより長い時間をかけられる。

 非同期通信をうまく利用するには、世界中の職場を悩ませる恣意的な「緊急性」を捨てる必要がある。

 1世紀近くも前のこと、ドワイト D. アイゼンハワー米国大統領は、ノースウェスタン大学学長のJ. ロスコー・ミラーの言葉を引用して、こう言った。「問題には2種類ある。緊急の問題と重要な問題だ。緊急の問題は重要ではなく、重要な問題が緊急だったためしがない」。この「アイゼンハワーの原理」に従って、元大統領は膨大な仕事の優先順位をづけていたと言われている。

 非同期型のメッセージを最大限に活用し、あとから大量のフォローメールを交わさずに済むようにするために、最初の要求メールでは次のことを明記しよう。

・十分な詳細
・明確なアクションポイント
・締め切り期日
・メールの受信者が要求に応えられない場合の援助要請の経路

2)すべて一括チェックする

 ほんの1秒足らずの時間で「ちょっと確認するだけ」でも、累積すれば1日の間に生産性の40%を失いタスクを切り替えてからフロー状態に戻るには23分かかる

 メールやインスタントメッセージ、SNS、ショートメッセージは、1日を通して散発的にチェックするよりも、あらかじめ決めた時間にまとめてチェックしたほうがいい。

 自制する自信がない場合は、GmailのInbox Pause(インボックス・ポーズ)のような拡張機能を使うのも手だ。一度チェックした後に受信トレイを一時停止にし、再びチェックする時間ができたときに一時停止を解除することができる。ブロックサイト(Blocksite)Freedom(フリーダム)といったアプリにも、特定のウェブサイトやアプリへのアクセスを一定時間、制限する機能がある。

(3)邪魔しないでください

 ここまで読んで「でも私のオフィスはオープンプラン式だから、どうしてもじゃまが入る」と思う人は、いま、フロー状態(あるいはフローに入ろうとしている状態)だから、よほどの緊急性がない限りじゃましないでほしいというシグナルを出して、チームメンバーに伝えよう。たとえば、ヘッドフォンをつける、という簡単なシグナルでいい。

(4)カレンダーでテトリスをしない

 今日の職場では、他人があなたのカレンダーに予定を書き込むことが広く容認されている。これでたいてい、あなた自身の優先順位は台無しだ。

 ベースキャンプ(Basecamp)CEOのジェイソン・フリードは、私が主宰するポッドキャストのフューチャー・スクウェアド(Future Squared)で、こんなエピソードを話してくれた。ベースキャンプでは、あらかじめ本人の同意を得ない限り、他人のカレンダーに会議の予約を入れられないことにしている。すると、ほとんどの会議はなくなるという。会議を開く代わりに、たいてい電話かショートメッセージを選ぶからだ。

 ほかにも、あなたのカレンダーに会議を入れられないようあらかじめ時間を抑えておくとか、カレンディ(Calendy)のような会議のスケジューリング・ツールを使って、あらかじめ設定した時間にのみ会議を予定できるようにするといった方法を使うと、その日の会議以外の時間に集中して作業ができる。また、会議のスケジュールを決めるときに陥りがちな、メールのピンポンを経験せずに済む。

(5)会議で完結させる

 フォローアップのために中断するリスクを避け、会議を前回の会議について議論する場にしないために、会議は毎回、実行可能な次のステップ、明確な責任分担、締め切りの日を決めて終えよう。

(6)「全員に返信」しない

「全員に返信」は説明責任を共有する仕掛けとして使われるが、他人の受信トレイや思考の時間によけいな雑音を突っ込むだけである。もっと自分の決断に責任を持ち、本当に知らせる必要のある人にだけメールしよう。

(7)第3のスペースを利用する

 スー・シェレンバーガーは『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙で、「こうした社会工学(すなわちオープンプラン式のオフィス)は、オフィスワーカーの目をPCの画面から逸らすものを際限なくつくり出している。視覚的ノイズ、つまり視界の隅に入ってくる人や物の動きは、集中力を損ない、分析的な思考や創造性を妨げる」と述べている。

 オープン・プラン式のオフィスで集中できずにいるなら、第3のスペースで批判的思考に費やす時間を増やそう。オフィス内の静かな場所を探したり、レンタルオフィスを利用したり、一定時間を在宅勤務にする交渉をしたり、といった方法が考えられる。

(8)プッシュ通知をオフにする

 平均的な管理職は1日に46回、プッシュ通知を受け取っている。パブロフの犬のように条件反射で反応しないように、プッシュ通知をオフにしよう。やり方はこちらへ

(9)機内モードを利用する

 1日のある時間、携帯電話を機内モードに切り替えて、ショートメッセージや電話の通信を制限することもできる。もしそれをやることに不安があれば、特定の番号、たとえば愛する人や大切な人、重要なビジネスの仲間の番号は制限から除外することができる。iPhoneの「おやすみモード」でも、指定した「よく使う」の連絡先にだけ着信を許可し、その他の電話やメッセージは消音にすることができる。

(10)承認を取る階層を限定する

 実施するのは簡単ではないが、「最小限の実現可能な書類手続き」、つまり、さほど重大ではなく些細な事柄については、承認を取る階層を必要最小限に減らすことで、回覧する書類は減り、中断されることは少なくなる。

意識がカギを握る

 環境の変化はさておき、人間はサバンナで生き残ろうとして、エネルギーを温存するように進化してきた。そのため、一番低いところにぶらさがっている果実をとる、すなわち一番簡単にできることを先にやろうとする傾向がある。たとえばプレゼンテーションに取り組むより、メールをチェックしようとする。私たちには楽なほうへ流れやすく、価値の低い活動に気を逸らされやすい傾向があるともっと意識することが、行動を変える最初のステップだ。

 気が散るものを最小限にする文化を築く組織は、従業員の高い集中力によるメリットを享受し、従業員もストレスが減り、最終的により大きな達成感を得るだろう。


HBR.org原文:10 Quick Tips for Avoiding Distractions at Work, December 18, 2019.

スティーブ・グラベスキ(Steve Glaveski)
オーストラリアのメルボルンを拠点にイノベーションとスタートアップを支援するアクセラレーター、コレクティブ・キャンパスの共同創設者でCEO。ポッドキャスト、フューチャー・スクウェアド(Future Squared)を主宰。著書にEmployee to Entrepreneur(未訳)がある。


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