(1)乱気流の兆しに細心の注意を払う

 既存企業は一般的に、乱気流の兆しを無視したことが原因で破壊される傾向にある。一方、デジタル乱気流のインパクトを理解している会社ほど、攻勢に出ようとする。ハイテク業界のようにデジタル化が最も進んでいる業界の企業は、DXの必要性をすでに感じていて、攻勢に出る傾向が強い。

 我々の調査では、ハイテク企業の4分の1が攻勢に出ていることがわかった。この割合は、全業界にわたるすべての企業の2.5倍に当たる。対照的に、自動車業界でデジタル・リ・インベンションを実行している企業の割合は、その半分程度だった。

 さらに興味深いのは、同じ業界内にも温度差があることだ。リスクを認識している企業ほど行動を起こしている。ハイテク業界では、企業が現行のモデルでは立ち行かず、(既存モデルに最小限のデジタル化を加えるだけでなく)完全に新しいモデルに移行する必要があるという結論を出したとき、自社のデジタル・リ・インベンションに踏み切る頻度は業界平均より40%以上も高い。

 行動を起こすに至るティッピングポイント(転換点)は、業界ごとに異なる。ハイテク業界の企業は、従来型の収益モデル内の25%で自社製品同士が市場を奪い合うカニバリゼーションが起きていると認識した際、決断することが多い。銀行業界では、カニバリゼーション・リスクを認識する転換点は35%である。いずれにせよ、このようなティッピングポイントではDXの決断が比較的容易になる。

(2)スタートアップによるリスクだけでなく、あらゆるリスクを理解する

 既存企業がよく犯す間違いは、ITスタートアップ企業による影響の兆候だけを見ることである。しかしどの業界でも、ITスタートアップが1社あれば、リ・インベンションの最中である既存企業も1社あるはずだ。

 ある業界で、競合他社が9社存在する企業があると仮定しよう。このうち1社は業界内のITスタートアップで、もう1社は隣接業界のITスタートアップだとする。残り7社は業界内の既存企業だ。

 これはまったくの仮説ではなく、我々のデータに基づく、典型的な業界構造を推定した姿である。概して企業が直面する競争相手とは、業界内の既知のライバル企業と新規参入企業、そして隣接業界からの参入企業である。平均すると、既知のライバル企業のうち3社はDXの推進をすでに選択しており、そのうちの1社はおそらくすでにデジタル・リ・インベンションを遂げていることが、我々の調査からわかっている。

 すなわち、ここで仮定した企業は、業界内のITスタートアップ企業1社からだけでなく3社からの攻勢を受けることになり、そのうち1社は業界の成功体験を基盤とする経営方法からの脱却を選んだ既知の競争相手である。つまり、「赤の女王効果」(同じ場所にとどまりたければ、力の限り走らなければならない。別の場所に行きたければ、2倍の速度で走らなければならない)ということである。

 さらに、業界でDXが進むほど、既存企業がデジタル・リ・インベンションを積極的に進める頻度は高くなる。そうなれば、攻勢に出てくる競合相手は平均3社から5.5社に増える。この企業数は、高度にデジタル化されたハイテク業界での競争相手の50%以上に上る。

 デジタル・リ・インベンションに成功した企業となるには、新規参入のデジタル企業を追うだけでなく、デジタル・リ・インベンションに取り組む可能性のある伝統的な競合他社をよく観察し、業界の境界線を越えて参入してくる既存企業にも注意を払わなければならない。

(3)主力事業の強化と事業の多角化で二重の攻撃をしかける

 今日、多くの企業が、まず自社の主力事業を守り、次に多角化による攻勢に出ようと考えている。典型的な既存企業は、主力事業以外に約30%のリソースしか振り分けていない。かたやデジタル・リ・インベンションを真に成し遂げた企業は、主力事業のビジネスモデルの再編と、それ以外の事業への投資に同等のリソースを費やしている。

 もっとも、非主力事業だけに集中するのは間違っているおそれがあることも、我々は発見している。

 第一に、各新規分野での存在感を増すために時間をかけて多角化すると、収益の伸びが鈍化し、同程度までとは言わないが、利益の伸びも鈍化する傾向にある。さらに、非主力事業の資産と競争力は、主力事業ほど広範に及んでおらず、確立もされていない。

 第二に、前述の通り、主力事業は多くの企業にとって、相変わらず主要な収入源である。主力事業のデジタル・リ・インベンションが、依然としてよりよい成長路線に導いてくれる可能性が高い。

 デジタル・リ・インベンション路線を取った企業が、主力事業とデジタル化の両方で攻勢に出ると、総売上げも利益の伸びも向上することがわかった。その効果は、数字だけを見るとさほど大きくない。業界により、ベースラインに、前年比収益増加率の0.5%から1.0%の範囲で上乗せされる程度だ。だが、その効果は利益では3倍大きく、長年にわたって蓄積される。

(4)まず、リーダーシップのスキルを変革する

 多くの既存企業は、依然としてDXの過程で大きな障壁に出くわす。ある意味、これは自然なことだ。既存企業は何年もかけて、堅牢なルーチンと競争力を築くことで成功してきたからである。概して、他社に類のない資産を提供することで競争力を築くのに成功しているほど、それを手放すのが困難になる。

 しかし、我々が統計分析で発見したのは、経営陣が実行に移すと本気で決断した場合、たとえばCEOがプログラムを大々的に支援したり、理事会がDX担当のマネジャーを新たに任命したりした場合には、実際にデジタル・リ・インベンションを実現する可能性が高いということである。

(5)需要中心の事業戦略を優先する

 前述の通り、既存企業がビジネスモデルをプラットフォーム戦略にシフトすると、より高いリターンを得られる。デジタル・リ・インベンションに向かっている既存企業では、この効果がいっそう大きくなる。我々は新たな調査で、この事実を発見することができた。

 同時に、2つの微妙な違いも新たに発見した。1つ目は、ITスタートアップとデジタル・リ・インベンション路線を取る既存企業を比較した場合、前者のほうが、プラットフォーム戦略を最優先するケースが2.5倍多いことだ。それゆえに、ITスタートアップが既存企業よりも成功する確率が高い。

 2つ目は、需要中心に見直したプラットフォームモデルが、デジタル・リ・インベンションで成功するチャンスを増やし、利益を確実に増やすということだ。プラットフォームに関する企業経営の文献で強調されているように、デジタル化で利益率が上がるのは、需要中心のネットワーク効果による潜在力が導き出す結果なのである。

(6)先端技術を試してみる

 デジタル・リ・インベンションがうまくいくのは、企業が適切なデジタル技術のアーキテクチャ(設計)を十分に理解している場合だけである。並行して実施した調査結果でも、デジタル・リ・インベンションに成功した企業は、あらゆるデジタル技術を採用し、組織全体に浸透させ、きわめて重要なアプリケーションとプロセスを支援するために万全を期していたことが明らかになった。

 さらに、こうした企業はすでに、人工知能(AI)技術に関する可能性も探り始めていた。たとえば、競合他社よりも優位に立つ手段として、機械学習のアルゴリズムを深層学習にアップグレードしたり、新世代のスマートロボットに投資したりしていた。

 意外だったのは、調査結果によると、一足飛びに前進した例がなかったことだ。ソーシャルメディアや携帯電話などデジタル技術の最初の波を十分に習得せずに、いきなりAIに取り組んだ会社は数が少ないだけでなく、投資に対するリターンも低かった。デジタル・リ・インベンションに成功して、テクノロジーへの投資から高いリターンを得るためには、各世代のテクノロジーを習得する必要があり、かつ相当なスピード感を持ってそれを実践する必要がある。


HBR.org原文:What Successful Digital Transformations Have in Common, December 19, 2017.

ジャック・ブギャン(Jacques Bughin)
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートのディレクター。ブリュッセルを拠点に活動。

タンギ・カトリン(Tanguy Catlin)
マッキンゼー・アンド・カンパニーボストンオフィスのシニアパートナー。マッキンゼーのデジタル・クオーシェント・イニシアチブ担当。


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