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米国ではいま、1人での車通勤が問題とされている。CO2排出量が増加して環境負荷が高まるだけでなく、ストレスの原因になっているためだ。だが、従業員に通勤方法を変えてもらうことは容易ではない。筆者らは、行動科学に基づいた実験を通じて、どうすればそれを実現できるかを検証した。


 米国の従業員は平均して年間200時間を通勤に費やし、4人に3人は、1人1台での車通勤をしている。1人での車通勤は環境に悪影響を及ぼすだけではなく(世界のエネルギー関連CO2排出量の24%は運輸部門)、ビジネス面でも悪影響がある。車通勤者は電車通勤者に比べて、ストレスの度合いが高く仕事の満足度が低い。車通勤では渋滞に巻き込まれたり、道路状況によっては緊張したりするのが、主な原因だろう。

 積極的に車通勤を減らそうとしている企業もある。しかし、どうすれば企業は、従業員に通勤方法を変えるよう促せるのだろうか。

 その答えを探るために、私たちは欧州の大都市郊外にある空港で2015年初頭に調査を実施した。その空港では7万人以上の従業員が働いており、調査開始時点では、その半数が1人で車通勤していた。空港側は、従業員の通勤方法を1人での車通勤から、カープールや公共交通機関の利用、自転車、徒歩など、より活動的な方法に変えたいと考えていた。それができれば、この企業は渋滞の緩和という形で持続可能な環境づくりという目標を達成できる。

 私たちは、空港の従業員の通勤に関するアンケートからデータを収集し、従業員数十人と面接して、何があれば、より活動的で持続可能な通勤方法に切り替えやすくなるかを質問した。彼らの回答と、当時の最新の行動科学のエビデンスに基づいて、私たちは彼らに通勤方法を変更するよう「ナッジ(それとなく望ましい行動へと誘導)」する一連の実験を計画した。

  私たちは、従業員が取り組みたいと言っていた行動に焦点を合わせた。たとえば、彼らはカープールを望んでいた。もし同じようなルートとシフトパターンの人が見つかれば、カープールをするだろうとも話していた。

 そこで、私たちは「ナッジ」の一つの方法として、仲介役をすることにした。従業員1万5000人に手紙を送り、職場にすでにある個人的なカープール・システムへの登録を勧めた。このシステムは従業員をマッチングし、カープールを魅力的に見せる特典も提供していた。たとえば、便利な場所に優先的に駐車できたり、緊急時に車で自宅まで送る年中無休24時間対応サービスを受けられたりする。

 だが、従業員は関心があると言ったにもかかわらず、私たちの手紙を受け取ってカープール・システムに登録した人は100人にも満たなかった。1ヵ月後、サービスを利用している人は3人だけだった。従業員が伝えた希望と、実際にできることやみずから実践することの間に、明らかなミスマッチがあった。

 また私たちは、公共交通機関の割引乗車券の提供など、企業が通勤行動を変えるためによく用いるアプローチも評価したかったので、合計7500人の従業員を対象として2つの追加実験を行った。

 1つの実験では、1週間の無料バス乗車券を提供することで、割引交通パスの購入が増えるかどうかに注目した。もう1つの実験では、無料バス乗車券を使わなかった人をフォローして、お金がもったいないと注意を促した。だが、どちらの方法でも交通パスの利用を促す結果にはならなかった。

 別の実験では、1000人以上の従業員それぞれに通勤プランを提供して、効果を評価した。時間もお金も節約できるような通勤手段をそれぞれにカスタマイズしたパンフレットを作成した。パンフレットでは、カープールのパートナー候補やバスと電車のルートと所要時間を強調し、割引交通パスの情報を提供した。だがまたしても、1人での自動車通勤を減らす効果はなかった。