幸い、時間管理の素地となる能力について、深く掘り下げている調査も豊富にある。ここでいう時間管理とは、環境や状況の変化に応じて自分の時間を組み立て、確保し、調整する意思決定プロセスのことと定義される。時間管理の成否を分ける能力とは、次の3つである。
・認識力(awareness):限られたリソースであることを自覚し、自分の時間を現実的に考える能力。
・段取り力(arrangement):時間を有効に使うべく、目標、計画、スケジュール、タスクを組み立て、工夫する能力。
・適応力(adaptation):何かをやりながら時間の使い方に注意し、優先順位の変更や割り込みに対する調整などを行う能力。
これら3つの能力のうち、段取り力が最もしっくりくるだろう。アプリやハックも、その大半がスケジューリングやプランニングに関係している。一方、認識力と適応力は、それほど広く認知されていない。そうなると自己成長の観点から見て、この2つの能力がどのように発揮されるのか疑問が湧く。
重要度としては同じなのだろうか? マスターする難易度に違いはあるのだろうか? 希少性に差はあるのだろうか?
時間管理能力の測定
こうした疑問に答えるために、時間管理能力の客観的な評価を目的に実施し、1200人が参加した30分間のマイクロシミュレーションの結果を分析した。
参加者にはフリーデザイナーの役を与え、メール、メッセージング、クラウドストレージなどの通信プラットフォームを用いて、仕事や顧客・同僚との関係を管理させた。課題として、スケジュールのバッティング、クライアントからの要求の優先、自分の時間をどう使うか(あるいは使わないか)の決定などに対応させた。
その結果、いくつかの興味深い点が明らかになった。
第1に、3つの能力はいずれも、時間管理の全体的な成績に等しく影響した。したがって、スケジューリングとプランニング(すなわち段取り力)を向上させるだけでは、時間を効果的に管理するために必要な3分の2の能力を無視することになる。新しいツールを試しても時間管理がうまくなった気がまったくしないと、肩を落とす人が多いのはそのせいだろう。
第2に、成績が最も芳しくなかったのが認識力と適応力であり、平均して段取り力の成績を24%下回った。これは、認識力と適応力を持っている人が少ないことだけでなく、2つの能力を指導なしで自然に身につけるのが難しいことを示している。さらに、認識力は先延ばしを防げるかどうかを左右する最大の要因であり、適応力は優先順位づけの得手不得手を左右する最大の要因であった。
第3に、マルチタスクの善し悪しに関する、おなじみの忠告に反する結果が得られた。シミュレーションの後、参加者にマルチタスクについてどう思うかという聞き取り調査を行ったところ、参加者がマルチタスク(学者がポリクロニシティと呼ぶ)を好むかどうかは、時間管理能力とは無関係であることが明らかになった。時間管理の上手下手は、マルチタスクへの志向とは何ら関係がなかったのである。したがって、時間管理のコツを教える人がよくマルチタスキングに注目するが、それが何らかの成果につながる可能性は低い。
第4に、人は自分の時間管理能力について、まったく正確に自己評価できていないことも明白だった。たとえば、自己採点が客観的採点と一致した人は、全体の1%に満たなかった。さらに自己採点では、時間管理能力の差が実際のおよそ2%にとどまった。こうした結果は、能力に関する正確な自己認識の欠如と、それが変革やリーダー育成を妨げることを示唆する、従来の研究結果をそのまま繰り返すものとなった。