時間管理能力を磨くには
では、何を備えれば、時間管理能力を高めることができるのだろうか。
まず、どこに注力するかの見極めだ。その答えを導く唯一正しい方法は、現在の能力レベルをしっかりと確認することである。改善に取り組むための準備として、3つのステップを踏もう。
●時間管理能力に関する正確な自己認識を築く
それにはマイクロシミュレーションのような、客観的な評価方法を利用するとよいだろう。同僚や上司など他者からフィードバックを得たり、改善度を測定したりするために行動の基準を設定する。
●志向は関係するが、どう関係するかを認識する
マルチタスクやプロアクティブタイムといった時間管理に関する志向や性格を自己認識していると、いまの習慣を変えようとしたときに、どのような点で苦労するかを理解するのに役立つ。だが、人の資質の中で、最も鍛えることができ、自己改善努力に対する費用対効果(ROI)が大きいのは、性格ではなく能力であることを覚えておこう。
●向上を要する能力を見極め、優先的に向上する
当たり前のように聞こえるだろうが、ここで重要なのは、あちこち手を広げすぎず「広く浅く」の自己改善は避けること。まずは最も差し迫った能力向上に専念し、それから次に移行するというように、能力開発の優先順位をつけるのがベストである。
根拠に基づく時間管理能力を高める戦術はいくつもある。以下に、一部の例を挙げる。繰り返しになるが、戦術は、基礎能力を培うためのものであると理解することが肝要だ。その能力が最終的に時間管理を向上させる。戦術を実践すること自体が最終目的ではない。
●認識力を高める
効果と効率は違う。効果とはどれだけうまくできるか、効率とはどれだけ早くできるかであり、どちらも重要だ。効率そのものを追求することは非生産的である。
・自分のピーク時間を見つける:典型的な1日を3~4の時間帯に区切り、1週間にわたり、それぞれの時間帯に生産性の高さで順位をつける(生産性が最大のときがパフォーマンスのピーク時間)。
・時間をお金と思って扱う:典型的な1週間の時間の使い方を細かく決めた時間予算を策定する。時間を固定時間(「必ずやること」)と自由裁量時間(「やりたいこと」)に分類する。
・何事も期限を決める:何時間残ったかではなく、期限をはっきり定め、各タスクに費やした時間を記録する。
・どれだけ現実的に時間を見積もっているかを評価する:プロジェクトを終えるごとに、想定した所要時間と実際にかかった時間を比較する。
・「未来展望(future time perspecive)」を持つ:いまやっているタスクが将来の自分にどう役立つか、または阻害するかを考える(今日のプロジェクトタスクが来週のタスクにどのような影響を与えるか、など)。
・「サンクコストの誤謬」を避ける:1つのことに時間をかけすぎていると思ったら、一歩引いてその重要性を考える(成果にどれだけ価値があるか。遂行したら、またはしなかったら誰に影響があるのかなど)。
●段取り力を高める
慣れていない重要なタスクの場合、学習曲線が急勾配になりやすく、所要時間が読めない場合が多い。段取り力を身につけることは、仕事を整理して生きやすくするためではなく、自分の人生の主導権を握り、それを軸にして仕事を組み立てるためである。
・「やること」と「やるべきこと」の優先順位をつける:タスクリスト、やることリスト、打ち合わせを書き出すだけでは十分とは言えない。
・「単純緊急性効果」を回避する:緊急度と重要度は関係しているが、別の概念である。緊急のタスクには至急のアクションを要する一方、重要なタスクには大きな意義と長期的影響がある。至急かつ重要なタスクを最初に行うべきだ。
・カレンダーアプリを利用する:タスクやアポイントメントの期日を記録する。予定したとき、依頼を受けたときに即座に実施すること。色やラベルで識別しやすくする(仕事、学校、プライベートなど)。
・自分のための時間を予定に入れる:自分の時間を確保し、自分にとって重要なプロジェクトに専念できる、邪魔されない時間をつくる。
・過小見積もりを減らす:計画を立てるとき、想定した所要時間について中立的な立場の人からフィードバックをもらう。
・目標を半分にしてみる:目標達成が難しいと感じたら、ハードルを下げる。
●適応力を高める
この能力は重圧を伴う事態、時には危機的状況で試されて磨かれる。そうした状況に動転せず、不安にならず、取り乱さずに対処できることが課題である。
・「習慣スタッキング(habit stacking)」を試す:時間管理に関する行動を、すでに行っている習慣と結びつける(夕食の席に着いたら、その日の進捗を確認するなど)。
・短時間の集中を繰り返す:タスクが大きすぎてやる気を失いそうになったら、先延ばしを防止するために、15~30分の間隔で全力で取り組むようにする。
・作業時間管理やチェックリストのアプリを使ってみる:そのツールにコスト以上のメリットがあり、アプリに費やした時間以上の得があること。
・リマインドを惜しまない:リマインダーには詳細な説明をつけること。1語や2語では、タスクの重要性や期待されるクオリティが伝わらない。
・緊急時対応計画を用意しておく:計画の成果予測をする時点では、最良のケースと最悪のケースのシナリオを考える。
・時間の浪費になる原因を減らす:誰にも邪魔されない時間枠を設ける。大事な仕事をする時間はSNSをブロックする。
自分を見つめ直すことの多い時期、なぜ時間管理がこれほどまでにしぶとく、いつまでも多くの人の目標として挙げ続けられているのか。皮肉なことに、時間管理を改善する努力をするうえでも時間管理ができていない、すなわち努力すべきことの優先順位づけができていないということだろう。
その道のりは、付け焼き刃の対策に乗り出す誘惑を振り切り、時間管理の基礎となる能力を自己分析し、それを培うことから始まる。今年もまた、新年の抱負をなかったものにする前に。
HBR.org原文:Time Management Is About More Than Life Hacks, January 29, 2020.
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