朗読コンテストとパリの会議はまったく性質が違うが、1つのことが共通している。人前で話すときの準備に問題があった点だ。朗読コンテストに向けて私は詩を暗記したが、稽古が足りず、本番の舞台の緊張でつまずいてしまった。パリでは、鍛え上げた即興スピーキングのスキルに頼ったが、細部に対応することができなかった。

 私はこの2つの失敗の教訓をキャリアに活かして、現在は、TEDxのトークをはじめ、毎週のように基調講演やリーダーシップのワークショップでのパブリックスピーキングをこなし、プレゼンテーションのコーチもしている。

 私は自分の経験から、最も効果的なパブリックスピーキングのアプローチを発見した。「台本」を知り尽くすことだ。

 台本やプレゼンテーションを知り尽くすとは、伝えたいことを表現する言葉や順序をていねいに練り上げ、求められれば逆からでも暗誦できるぐらい何度もリハーサルを重ねることを指す。それは暗記の増強版とでもいうもので、必要性やスピーチをする場に応じて修正を加える。

 あるときには、箇条書きにした要点をマスターすることで聴衆に伝わるようにし、またあるときには、自分の名前のようにすらすら言えるぐらい、原稿の一字一句を覚える。そして、聴衆にとって何が最も効果的かを考え、言葉はもちろんのこと、動作や、要点から要点への移行も念入りに組み立て、1つの流れるような動きにする。同時に、スピーチしている間に、調整やアドリブを加えられるだけの時間的余裕も持たせる。

「知り尽くす」ことは、いわば圧力弁のようなものだ。これによって緊張が解け、汗腺も刺激されにくくなり、自信も増してくる。

 台本を徹底的に習得すれば、特に考えなくても、1つの要点から次の要点へと移行できるようになる。次は何かと気にせずに、目の前の聴衆に全力で集中し、彼らの反応に適応できる。聴衆が笑ったら、少し間をとって、彼らがその瞬間を楽しめるようにし、聴衆の関心が薄れてきたのを感じたら、声の大きさやピッチを変える

 準備しすぎると、いかにも脚本通りに見えたり、不自然に見えたりしないかと心配する人も少なくないが、もし聴衆がそう感じるとしたら、それは話し手が内容を知ってはいても、知り尽くしていないときだけだ。

 徹底的に知り尽くしていれば、逆に自然体になって、その場に即した対応ができる。私は基調講演で感情が高まることがよくあるが、スピーチのどの部分でそうなるかは、その日の自分の解釈や聴衆から感じ取ったものによって毎回違う。

 台本をよりよく準備してマスターするためのテクニックを、5つ挙げよう。