
企業が特定の大義を支持することはご法度であり、政治からはできるだけ距離を置くことが得策である。それが常識とされた時代もあったが、風向きが大きく変わり始めている。社会の二極化が急速に進む中、中立的な立場を維持する企業のほうが問題視される風潮すらある。企業が自社の政治的な姿勢を明確にする行為は、消費者の選択を本当に左右するのだろうか。
企業は政治から距離を置くべきだ――。それが常識だった時代があった。
特定の大義を支持するなんて、商売にとっては百害あって一理なし。アドボカシーは避けて、商売に専念し、感情は抜きにして、特定の陣営を怒らせないこと、というわけだ。政治献金をするなら主要陣営すべてにすること。政治的な賭けはヘッジするのが当たり前だった。
だが、時代は変わった。
きっかけは、1980年代に高まった「企業の社会的責任(CSR)」運動だ。このとき、自社のビジネス慣行が、社会や環境に与える影響を真剣に考える企業が増えた。
ただ、アドボカシーは存在しても、あくまで商品や製法に関することであり、政治色はなかった。「ホルモン剤不使用」や「ビスフェノールA(BPA)不使用」をうたう商品のメーカーや、人権侵害的な労働慣行をとる下請け会社をサプライチェーンから外した企業に対して、腹を立てる人はいなかった。こうした措置は倫理観に基づくものであって、政治的イデオロギーに基づくものではなかったからだ。
しかし、社会の政治的二極化が進むと、企業活動にも政治色が強くなってきた。24時間休まず流れるニュースとソーシャルメディアによって、二極化がますます激しくなると、中立的な立場を維持する企業のほうが問題だと思われるようになった。
過去10年を振り返ると、思い当たる例がたくさんある。クラフト店チェーンのホビー・ロビーは、避妊薬や避妊具への医療保険適用を義務づける連邦法は違憲だとして、合衆国最高裁まで争って勝利を収めた。ナイキは、国歌斉唱時の膝つきが大論争を巻き起こしたアメフト選手のコリン・キャパニックを大規模な広告キャンペーンに起用した。ウォルマートやディックズ・スポーツ用品店など全米の小売業者は、相次ぐ銃乱射事件への対応として、一部の銃の販売を打ち切った。
こうした措置は、重要なステークホルダーとの絆を強化するので、企業として正しい措置だと評価する声もあれば、アドボカシーは従業員と顧客を遠ざける可能性があるから、何があっても避けるべきだという主張もある。
双方の考えについて、さまざまなことが書かれてきたが、いったいどちらが正しいのだろうか。
政治的アドボカシーは、消費者の心理を変える力があるのか。ステークホルダーの行動を変えるのか。求職者は、自分と信念が異なる会社で働こうと思うのか。人々は日常生活にまで政治が入ってくることに辟易としているのか。どの政党を支持するかは、企業のアドボカシーをどう受け止めるかにも影響を与えるのか。
こうした問いの答えは、企業に現実的な影響を与える可能性がある。そこで私たちは、独自の調査に乗り出すことにした。