サーフェス・アクティングと
ディープ・アクティング

 我々はまず、2種類の感情コントロール戦略を使って、同僚相手に自分の感情をどの程度コントロールするかを被験者に評価してもらった。「サーフェス・アクティング(表層演技)」と「ディープ・アクティング(深層演技)」である。被験者には、同僚に対してこれらの戦略を使ったとき、どんなメリットがあるのかも尋ねた。

 実際に感じているものとは異なる感情を表出しようとするときは、サーフェス・アクティングをしている。たとえば、通勤でストレスを感じた末に職場に着いたと想像してほしい。内面ではまだ特にポジティブに感じていなくても、朝のコーヒーを飲みながら同僚に向かって笑顔を取り繕うのが、表層演技である。

 対照的に、ディープ・アクティングをしているときは、偽りのないポジティブな感情を見せるべく、自分の内面での感じ方そのものを変えようとする。通勤でイライラした後でも、今日どんなよいことがありそうか、自分の仕事で好きな点は何かを考えて、自分が笑顔になれるように努めるのだ(「遅刻せずにここにたどり着いたのはよかった。チームの皆の顔を見てワクワクしている」といった具合だ)。

 我々の調査結果によると、ディープ・アクティングを頻繁に行う一方で、サーフェス・アクティングが少なかった人たち(ディープ・アクターと呼ぶ)が最も恩恵にあずかっている。そのような人たちは職場で快適に過ごせるうえ、疲労度も低いと報告している。

 さらに、生産性に関する恩恵もあった。すなわち、同僚から多くの手助けを得られるのだ。これには個人的なこと(たとえば悩みを聞いてくれること)と、仕事上のこと(仕事量が多すぎるときに手伝ってくれること)の両方が含まれる。努めてポジティブになろうとしていることに同僚が気づき、その労力に対して大いに報いてくれるようである。また、ディープ・アクターは助力を得られるおかげで、仕事がはかどって目標に近づくことができ、同僚に対する信頼感も高まったと報告した。

 一方、サーフェス・アクターの場合はどうだろう。興味深いことに、我々の調査では、ディープ・アクティングよりもサーフェス・アクティングに頼る人たちを見出せなかった。同僚とはいつもやり取りを交わしているため、頻繁に見かけを装う必要がないからかもしれない。

 だが、ディープ・アクティングとサーフェス・アクティングの両方をよく行う人たちのグループを見出した。我々が「レギュレーター」と呼ぶグループだ。このグループに属する人たちは、ディープ・アクティングをしても、よいことはあまり起きなかった。

 燃え尽き症候群のように感じたり(その理由は、本来の自分を出していないせいである可能性が高い)自分を偽っているように感じたり(その理由は、サーフェス・アクティングをしているせいである可能性が高い)するのに加えて、同僚からの支援を受けにくいという報告も寄せられた。人々は同僚の感情のシグナルに注意を払っているらしく、偽りの感情は害をもたらすのかもしれない。