パイプライン全体を見る必要性
女性取締役を1人加えただけで、男女同権や多様性を実践している企業だと言うことはできない。それは単なる隠れ蓑にすぎない。男女同権や多様性の実現に本気で取り組んでいるなら、あらゆる領域にそれが表れているはずだ。
石油会社やガス会社では、これが少しずつ進んできた。近年のプレッシャーの高まりを受け、これらの企業の多くが、女性取締役を増やしてきた。石油・ガス会社における女性取締役の割合は、この10年で倍増し、現在は14%だ。それでも、この業界の新規採用者に占める女性の割合は、わずかに増えたにすぎず、世界的には22%程度である(2010年には19%になるという予測もあった)。
ある会社が、多様性と男女同権にどのくらい本気で取り組んでいるか知りたければ、採用パイプライン全体を見るべきだ。その会社は、優秀な人材を雇うために何をしているか。あらゆる職務階層と昇進者の男女比や人種比は、どうなっているのか。
企業文化に注目せよ
企業文化を見ることも欠かせない。多様性とインクルーシビティの最大の牽引役となるのは、企業文化であることが多い。
ゴールドマンなど、未上場企業のIPOで主幹事を務めようとする金融機関は、対象企業の従業員が自社の文化をどう考えているか調べるべきである。匿名のアンケートの形で、会社で性差別や人種差別をはじめとする不寛容を経験しているか、経験しているとすれば、会社はどんな対策を講じてきたかを聞こう。
筆者たちの経験では、細かな質問よりも、おおまかな質問をしたほうが、自分が実力に基づき評価されているか、それとも人種や性別に基づく差別を受けているかについて、従業員の本音をうまく引き出せる。
たとえば、エネルギー分野で働く人の意識調査では、会社に帰属意識を持っているか、昇進はフェアで透明性のある基準に基づいているかを聞いた。また、会社がいわゆる「天才の文化」を持っているか、つまり能力は開発するものではなく、持って生まれるものだと考えているかも聞いた。
このような調査は、企業が、自分たちが思っているほどフェアな職場環境ではないことに気づく助けになってきた。