率直にメッセージを伝える
多くのリーダーには、こんな思い込みがある。自社が混乱期に直面しているという事実を認めれば、最も有能な従業員たちに去られてしまう、と。経営陣が実態を秘密にしておけば、従業員の懸念は少なくて済むだろう、という考えである。
これは、まったくの見当違いだ。人々が世界的な感染流行のただ中にあることは、誰もが承知している。新型コロナウイルスによる消費者動向の変化を受け、特定の経済分野がすでに深刻な打撃を受けていることも周知の事実だ。そして、経済の停滞と不透明感の増大が自社にも影響を及ぼしうることを、全従業員が知っている。
起こりうる事態についてあれこれ憶測を強いるよりも、自社の経営や財務状況と優先目標について、従業員にはっきり示すべきである。
優先すべき目標は各社によって異なるはずだ。リーダーは自分も信じてすらいない空虚な言葉、たとえば「私たちは従業員を第一に考えます」というようなメッセージに終始してはならない。雇用の心配が高まる中、このような言葉は曖昧に響き、逆効果にさえなりうる。
もっと具体的に述べたほうがよい。たとえば、雇用の維持と同時に、銀行との契約条項を守ることも優先目標ならば、そう伝えればいい。雇用の安定を強化するために、一連の変更を速やかに行うことが目標であれば、この決定を他の、喫緊ではない変更よりも優先させることを明確に伝えよう。
痛みを共有する
雇用の喪失を防ぐためのコスト削減に際しては、リーダーみずからが模範となり、自分の日常にも影響が及ぶような節約を実施すべきである。そうしなければ従業員は、「経営陣には影響がないのに、自分たちは犠牲を払うのか」という馬鹿馬鹿しさを感じる恐れがある。
給与削減は、まず経営幹部から対象にして決意を見せよう。CEOは、自分の給与を最も多く減額すべきだ。例として複数の航空会社のCEOらは、業界全体に緊縮の波が迫る中、一時的に給与の返上や減額をしている。
従業員からアイデアをクラウドソーシングする
会社が何をすべきかについて、従業員から意見を募るのは大変に思えるかもしれない。提案が選ばれなかった人を憤慨させるのではという、不安もあるだろう。従業員にアイデアを求めれば、リーダーの統制力の低下と見られるのではという、懸念もあるかもしれない。
あるCEOは「(アイデア出しに)参加してもらうのはいいが、混沌状態になるのは困る」と言った。そして、オープンに助言を求めるというやり方をはねつけた。
しかし、クラウドソーシングは必ず混沌を招くわけではない。筆者らの経験では、リーダーが従業員にアイデアの表明を求めることは、きわめて重要である。彼らの意見に関心があるという姿勢を、口先だけでなく実際に見せれば、今後優先する取り組みに対して、より強い賛同を得ることにつながるのだ。
一例として、ベス・イスラエル・ディコネス・メディカルセンター(BIDMC)は2008年の金融危機を受け、コスト削減策についてクラウドソーシングの手法を実施した。すると、寄せられた意見の大半はポジティブなものであった。実際、従業員たちは透明性を非常に歓迎し、批判や妨害を目論む不満気な同僚たちに対し、このやり方は正しいのだと擁護したのである。
リーダーはクラウドソーシングを始めるにあたり、プロセスを系統立てるために、優先したい取り組みの条件を明確に示す必要がある。たとえば資本要件とリスク特性が低いこと、キャッシュフローへのプラスの効果が立証されていること、雇用の安定化につながりやすいこと、等々だ。
そして、従業員のアイデア出しを歓迎する姿勢を心から見せよう。最終的に取りまとめたアイデア候補を提示し、複数の選択肢から希望を示してもらうのもよいかもしれない。
要するに、この種のやり方でリーダーが統制力を失うことはないのだ。むしろ、リーダーとしての立場をさらに強めることになる。