あまり一般的でないものも含め、すべての選択肢を検討する

 一時解雇の前に、コスト削減に向けた変則的な選択肢もすべて検討しよう。

 余剰人員がある職務は、週4日労働にすることで人件費を20%近く削減できる(一部のコストは間接費と福利厚生費のために残ると仮定)。労働時間を半分にすることも、雇用が確保されるなら受け入れるという従業員もいるかもしれない。

 また従業員が望むならば、無給休暇の機会を提供してもよい。これを「安息休暇」として扱うことで、休業に伴う負のイメージを幾分払拭できる。実際、一部の従業員はこうした選択肢を歓迎し、もっと前から利用できればよかったと思うかもしれない。

 自社の最優先事項の一つは一時解雇の回避であると、明確に示そう。そうすれば諸々のコスト削減策――昇給の凍結、賞与の停止、残業禁止、退職基金積み立ての一時停止、有給休暇日数の短縮など――に伴う個人的な犠牲を、従業員は素直に受け入れてくれるかもしれない。

 減給に際しては、最も打撃を受けやすい低給層の減額幅を少なくして、彼らを守ることを考えよう。たとえば最高給の従業員の減額は10%、中間の給与層は5%、一定以下の給与層は2.5%にするなどだ。

 これは、BIDMCでコスト削減の時期に行われた措置である。人員削減を最小限に抑えるべく、あらゆる工夫を試した経営陣に対し、従業員は感謝した。

「腹に氷を入れる」

 混乱の時期にリーダーでいるのは、神経がすり減るものだ。動きが拙速であれば、過剰反応になるかもしれない。遅すぎれば、経営を破綻させかねない。

 ここで賢明なのは、スウェーデン語で「腹の中の氷(Is i magen)」、大意として「危機的状況で冷静さを保つ能力」を持つことだ。

 まず、状況が悪くなるほど、政府の支援がやがて実施される可能性を認識しておこう。

 多くのビジネスリーダーは思い出せるはずだが、2008年の金融危機の後、景気刺激策に対する反発が生じた。その一因は、危機を引き起こした金融機関を救済することに対する世間の反感だ。

 現在のコロナ危機に対しては、ある特定業界の責任とはいえないため、世間は景気刺激策を支持する可能性が高い。そして、一時解雇を回避できる企業が経済援助の対象となるかもしれない。

 また、自社の事業にまつわるすべての悪材料を、同等に扱ってはならない。たとえば顧客企業が映画館運営会社で、自社とのプロジェクトの停止を余儀なくされている場合、その案件を近いうちに再始動させるのは無理だと考えるのは、妥当である。映画館業界は深刻な経済的打撃を受けているからだ。

 しかし、顧客が病院であり、いまは大量の患者に集中できるようこちらとのプロジェクトを停止したいと、申し出てきたとしよう。この場合は、現在の優先事項が何かは理解しているという姿勢を、病院の経営陣に示すのが得策だ。

 なお、顧客に対し、自社がこのパンデミックで被る経済的影響を見極めたい旨を説明し、事態終息後のプロジェクト継続の可能性を把握するために、率直な協議ができないか打診してみるのもよい。

 ただし「腹に氷を入れる」とは、従業員のニーズに対して冷淡であれという意味ではない。いまは感情的に距離を保つよりも、共感を示すときである。思いやりを持って導き、最も脆弱な従業員たちに対しては特に共感を持たねばならない。

 混乱時には、ほとんどの人が自分のことばかり考えるというのは、ありがちな誤解の一つだ。それどころか筆者らの経験では、個々の従業員は危機の最中に、自分が何かを我慢することで会社が同僚たちの職を守ってくれるならば、喜んでそうするものである。

 試練をくぐり抜けながら、自社を破綻させないために厳しい決断を下していくことは難しい。しかし思いやりを持って導けば、非常によい形で従業員の生活に影響を及ぼすことになる。そして、予想されるこの景気減速の後には、以前よりも強いリーダーとなり、従業員との共通価値を高めることになるのだ。


HBR.org原文:The Coronavirus Crisis Doesn't Have to Lead to Layoffs, March 20, 2020.


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