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新型コロナウイルス感染症の拡大は社会に大混乱を招いている。消毒液を買い占めたり、バーやレストランで騒いだりするなど、人間の醜さに焦点を当てがちだが、それはあくまで例外ではないか。こうした苦しい状況ではむしろ、人間の最も素晴らしいところが表現されるケースが多い。本稿では、ハリケーン・カトリーナでハンコック銀行の行員たちが取った行動を事例に、その意味を考える。


 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大によって、人間の醜い部分が表出している実態が散見される。公衆衛生ガイドラインに反して、一部の人がアルコール消毒液を何千本も買い占めたりバーやレストランに集まったりしている。

 だが、そうした無責任な行動は、慣例ではなく例外ではないか。人や組織の善意が、最悪の状況下で最大限に引き出される傾向にあることは、これまで繰り返し実証されてきた。どんな暗闇のときにも、明かりが灯る瞬間は無数にあるように思える。

 それは、ささやかな思いやりや絆を示す行為であり、自分が何者で、どのように生きたいと考え、何を大切に思っているかを自己表現している。

 著名なノンフィクション作家のレベッカ・ソルニットは、著書A Paradise Built in Hell(災害ユートピア)で、世界最悪の自然災害や人為的災害(サンフランシスコとメキシコシティの震災、1917年のハリファックス大爆発、アメリカ同時多発テロ事件)の際に、人々が取るボトムアップによる自然発生的な即席の対応について考察している。

「災害の歴史は、私たちの大多数が、生きる目的や意味だけでなく、人とのつながりを切実に求める社会的動物であることを教えてくれる」。大惨事は、悲惨ではあるけれども「人々に、緊急事態に対処するためのアクションを求める。それは、支持政党や職業とは無関係に、生存し隣人を救うための利他的で勇敢で独創的な行動である」。

 その認識について考えていたところ、私は過去のある企業ヒロイズムを思い出し、ソルニットのメッセージが真に迫った。それは、ニューオーリンズ州を襲撃したことで知られ、ミシシッピ州の湾岸都市も壊滅させたハリケーン・カトリーナ被害のどん底で起きた。