激しい重圧がのしかかる状況下で想像力を維持するのは、容易ではない。しかし、それができる企業は大きな恩恵を手にできる。景気後退期でも、14%の企業は、新しい成長領域に投資することで業績を伸ばし、ライバルを上回る成果を上げている。
一例を挙げよう。アップルが初代iPodを発売したのは2001年。この年、米国経済が景気後退に陥り、同社の売上げは33%落ち込んだ。
それでもアップルは、iPodが自社の商品ラインアップを大きく様変わりさせる力を持っていることに気づいた。そこで、予算を大幅に増額させて、研究開発に力を入れた。その後、2003年のiTunesストアの立ち上げ、2004年のiPodの新モデルの発売により、アップルは目覚ましい成長の軌道に乗った。
想像力を持っていれば、単に新しい環境に「適応」するだけでなく、新しい環境を「形づくる」ことにより成功を手にできる。これを実践するためには、いくつもの時間軸ごとに異なる思考法を使い分けて、戦略を考えなくてはならない。
現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の場合で言えば、次のようなプロセスをたどることになるだろう。
・最初は、問題に素早く対処し、自分たちを守ることを最優先に考える。
・次に、これから予想される景気後退を生き抜くための計画を立て、それを実行に移すことに関心を移す。
・景気後退の打撃がやわらいできたら、いわば再浮上に意識を向ける。需要回復を追い風にするために、商品ラインアップや流通チャネルを見直すのだ。
・やがて、状況が流動性を増すようになると、想像力に富んだ企業は、刷新に主たる関心を抱くようになる。より独創的な戦略を打ち立てて、逆境をチャンスに変えようとするのである。
戦略へのアプローチとしてはまず、再生と適応を目指す戦略から出発し、古典的な計画主導の戦略を経て、未来を見通して環境を変える戦略に転換していく。この最終段階に移行するために不可欠なのが、想像力だ。
私たちは最近、250社を超す多国籍企業を対象に、新型コロナウイルス感染症対策でどのような措置を講じているかを調べた。大半の企業は幅広い対応策を実施していたが、新しい戦略を打ち出す機会を見出し、新たな環境を形づくる段階に進んでいる企業は、まだ一部にとどまっている。
コロナ後の経済がどのようになる可能性が高いか、そして、どうすれば需要の一時的変化と恒久的変化を見分けられるかについては、別の論考で紹介した。しかし、企業はどうすれば、危機に直面することによって真っ先に想像力が損なわれる事態を避けられるのか。