●従業員が自分のパーパスを見つける手助けをする
在宅勤務という、これまでの常識から脱却した新しい仕事環境では、多くの人が基本的なことを問い直さなければならない状況にある。「自分がいま、やるべき仕事は何か。どうすれば会社に貢献できるのか。自分は仕事に何を求めているのか」。その答えは、1ヵ月前とは違っているかもしれない。
仕事の基本的な部分に変化がないかについて、今後の可能性も含めて、従業員一人ひとりと話をしよう。そして、彼らが誰の役に立とうとしているのか、そのためにリーダーである自分に何を最も求めているのかを考えてもらう。このようなやり取りを採用したほうが、日々の仕事と結びつきにくい壮大な経営理念や企業のミッションよりも、個人のパーパスが明確になりやすい。
ニューヨーク州立大学のアントニオ・フレイタスらの調査によると、与えられたタスクについて従業員に質問し、回答のたびに「それはなぜ重要なのか」と尋ねることを4回繰り返すと効果的だという。このエクササイズによって、個人の日々の仕事と企業の大きな目標とが結びつくのだ。
たとえば、部下の人事考課表を記入しなければならないマネジャーがいるとしよう。「なぜ、その書類を記入することが重要なのですか」という質問に対し、そのマネジャーは「従業員に自分の立ち位置を知ってもらえるからです」と答えたとする。
そこで、「従業員が自分の立ち位置を知ることが、なぜ重要なのですか」と尋ねる。「それによって、どうすればキャリアのゴールに近づけるかがわかるようになるからです」と答えたとすれば、「従業員が自分のキャリアのゴールに近づくことが、なぜ重要なのですか」と聞く。
「それによって仕事への注力の仕方が変わるかもしれないからです」と答えたならば、4つ目の質問は「従業員がこれまでと違う注力の仕方をすることが、なぜ重要なのですか」となり、マネジャーは「そうすれば、会社の成長を助けながら自分も成長していると感じられるからです」などと答えることが考えられる。
1960年代のNASAの意思決定を分析した、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのアンドリュー・カートン教授によれば、似たようなステップを踏むことによって、NASAの職員は、自分の仕事がNASAの最終的な目標にどうつながるかをよく理解できたという。「私は電気回路を組んでいる」や「私は床にモップをかけている」が、「私は人間を月に送ろうとしている」になったのだ。
人は、自分がなぜそのタスクに取り組んでいるのかを考えれば考えるほど、モチベーションが上がり、仕事に対して辛抱強くなる。そして、タスクが難しくなるほどやる気が出る。さらにカートンは、NASA研究の中で、このパーパスが職員の連携と全体的な士気を高めることにも気づいた。