残念ながら、企業のHR部門とDEI部門で、人種的なトラウマを抱えた従業員のニーズに対応するスキルを持っていたり、訓練を受けたりしているリーダーはほとんどいない。だからこそ、この前例のない状況に対処するためには、DEIやHRの標準的手順をいったん忘れなければならない。
人気のダイバーシティトレーナーが教えるストレス管理術では、とうてい不十分だ。全従業員を対象にしたプログラムではうまくいかないし、かえって「経営幹部も組織も黒人従業員のウェルビーイングを、ちっとも考えていない」という印象を与えてしまうだろう。
そうではなくまず、人種差別が黒人従業員の感情、精神、そして身体に悪影響を与えることを認識しよう。
黒人従業員が、「もう疲れ果ててしまいました」「私たちはうんざりしています」「いまは白人と交流できる気分ではありません」と言ってきたとき、それは「私たちは苦しいのです。トラウマを抱えており、この組織の中に黒人が集まれる安全なスペースを必要としています」という訴えであることに気づかなくてはいけない。
黒人従業員が安全だと感じられる場所をつくろう。また、人種的トラウマの熟練専門家を招いて、黒人従業員が自分の経験や感情を消化する助けをしてもらおう。
こうした独立したスペースを設けることについて、インクルーシブの理念に反する行為だと、複雑な反応を示す経営幹部もいるかもしれない。その場合、いま問題となっているのはインクルーシブではなく、人種的トラウマであることを強調しよう。全従業員を「集めて」人種差別について語り合うときは、いずれ来るだろう。だが、いまはそのときではない。
なかには、安全なスペース以上のものを求める従業員もいるだろう。カウンセリングを希望する従業員がいる場合、あなたの会社の従業員支援プログラム(EAP)に、文化的に適格なセラピストがいることを確認しよう。
EAPが社内プログラムであれ、外注業者が提供するものであれ、カウンセラーは黒人の話を聞く訓練とスキルを持つ人物でなくてはならない。人種差別について経験的な理解があり、自分と同じ人種の相談者であれ、異なる人種の相談者であれ、リラックスして話を聞くことができ、人種的トラウマの影響を理解している必要がある。
この基準を満たすカウンセラーがいない場合、そこに従業員を送り込んではいけない。それではトラウマを悪化させるだけだ。文化的に適格なカウセンリング・グループを探して、そこに連絡し、従業員に会ってもらう手はずを整えよう。