さらに、前回の金融危機から10年経ったいま、先の4条件に加えて必須となるのが、次の5つ目の条件である。
(5)デジタルを活用したトランスフォーメーションの早期実行
特に、大きな差別化につながるのが、顧客体験や営業・マーケティング手法のオンライン化・バーチャル化や、機械学習やアナリティクスを用いたオペレーションの改善である。
実際、今回の危機対応の中で、デジタルを活用した変革を早期に実現した企業も登場している。
例えば、自社資産の管理のための社内向けアプリを開発した航空会社や、リモートワーク下での顧客創出のために、自動化モデルの構築を進めた保険会社だ。さらに、新卒採用選考においても、その工数削減ために、AIを活用する事例もあった。
一方で、これらの推進に際して、社内のレガシーITがその障害として顕在化した企業も少なくない。そのような企業は、これまで外部に依存してきた開発ケイパビリティを内製化したり、よりアジャイルな働き方を導入したりする必要に迫られている。
今後の勝者と敗者を分けるものとは何か
日本国内では緊急事態宣言が解除されてすでに1カ月以上がたつが、その間どの企業も「三密」を避けるべく職場のレイアウトを変えたり、店舗のシフトオペレーションを組み直したり、コミュニケーションツールを急きょ導入してリモートの就業環境を整備したりと、緊急対応で手一杯であったように思う。
その一方で、国内外の投資家や株主は、今後も数か月・数年間にわたり継続すると見られる、この困難な状況の中で企業が成長を維持できるのかどうかについて、厳しい目で評価を始めている。
今後の勝者と敗者を分けるのは、これら5つの条件を踏まえ、トップマネジメントの強力なリーダーシップのもと、Next Normal(次なる常態・価値観)を生き抜くために必要なケイパビリティの構築ができるかどうか、また新たな事業領域での成長というイシューに目を向け、そこに集中できるかどうかにかかっているだろう。
危機下において企業が対処すべき自社の課題は、危機が起きる以前から顕在化していたものである場合も多く、経済が完全に回復するのを漫然と待つことなく、危機の早い段階からこれらの課題や弱点に対して適切なアクションをとることが肝要である。
最後に、マッキンゼーではグローバルの知見と専門家を総動員して、新型コロナ危機に関する種々の考察・レポートを公開している。
詳細については、ぜひマッキンゼーのグローバルウェブサイト"Coronavirus: Leading through the crisis"および日本ウェブサイト「知見」「COVID-19:ビジネスへの意味合い」を参照されたい。