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新型コロナウイルス感染症の影響を受けていない人はいないが、とりわけ非白人従業員が被る被害は甚大である。その多くは低賃金でエッセンシャルワークに従事しており、在宅勤務ができないために感染リスクにさらされやすく、仕事を変えるのも容易ではない。これは職業上の差異による問題ではなく、構造的かつ組織的な格差から生じる問題だ。チーム、組織、社会という3つの領域それぞれで、非白人従業員をサポートすべきである。


 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行は、世界中のあらゆる家庭と職場で感じられる。だが、「みんなで頑張ろう」という論調が多いなか、このパンデミックの副作用が、誰にでも同じようにもたらされているわけではないことは明らかだ。米国では、新型コロナウイルス感染症は、黒人をはじめとする非白人に甚大な影響を与えた。

 このパンデミックで、健康面で直接的な影響を受けているのが、非白人従業員と、その家族に偏っていることは明白である。また、既往症と医療アクセスの格差が相まって、米国先住民のあいだで感染者が急増しているほか、黒人中南米系コミュニティの死者がいびつに多い事態を招いている。

 米国では、低賃金の末端業務に「不可欠(エッセンシャル)」のスタッフは、非白人労働者が占める割合が大きいこのため彼らは、より大きな感染リスクと、新型コロナウイルス感染症で死亡するリスクにさらされている。

 それは職業の分断という、長年続いてきた現実を反映している。つまり一部の人口層には、在宅勤務など安全な環境に「避難する」特権がある一方で、より危険で、より低賃金の仕事から逃れられない人たちがいるのだ。

 新型コロナウイルス感染症は、米国で反アジア系に対する差別も助長した。アジア人とアジア系米国人は、職場でも公共の場でも、人種差別的な中傷や嫌がらせを受けてきた。3月半ば以降、アジア系をターゲットとするヘイトクライムや排外的な中傷は1700件以上報告されている。

 心理学者によると、パンデミックで生じた恐怖と、その犯人探しをする感情が、人種的スケープゴートが拡大している原因だという。新型コロナの場合、中国の武漢が発生源であることが、アジア系非難につながっているのだ。それはメディアや政治家が、「中国ウイルス」という表現を使うことで助長されている。

 このように、あらゆるビジネスパーソンが、コロナ禍がもたらした喪失に悲嘆に暮れているかもしれないが、人種的・民族的マイノリティの従業員はより大きなインパクトを感じている可能性が高い。非白人従業員は感染リスクの高い職業に就く割合が多いだけでなく、仕事以外の場所における人種的不平等(新型コロナウイルス感染症により拡大している)により、トラウマを受ける可能性も高いのだ。

 これまでの研究で、非白人労働者が警察の暴力や、移民税関捜査局(ICE)による不法移民の摘発、国境での家族離散、あるいは移民受け入れ禁止などの措置をみずから経験したり、代理経験したりすると、仕事でのエンゲージメントが低下することがわかっている。これは社会における人種差別と、それが自身のウェルビーイングに与える影響を職場で話すことはできないと感じるとき、特にひどくなる。新型コロナウイルス感染症がもたらすインパクトの格差も、非白人従業員のエンゲージメントに同様の影響を与えるかもしれない。

 また、非白人の新型コロナウイルス感染症による死者の中には、宗教界やコミュニティのリーダーなど、人種差別や貧困を乗り越えてきた草分け的存在の人もいる。研究によると、非白人のリーダーたちは、「逆境に打ち勝つ」ことによって、そのような立場に上りつめ、恵まれない人たちの擁護活動に献身してきた。新型コロナウイルス感染症で黒人など非白人リーダーの命が失われたことは、ロールモデルや指導者や擁護者の喪失であり、非白人後継者が育っていない組織に大きなダメージを与えている。

 今回のパンデミックが、構造的かつ組織的な格差を露呈させてきたことは明らかだ。それは、個人の気概や意志の力だけでは、新型コロナウイルス感染症が非白人従業員に与える影響を緩和できないことを意味する。

 企業のマネジャーやリーダーは、黒人など虐げられてきた人々にエンゲージして、追加のサポートを提供する必要がある。企業は、地域社会の非白人住民をサポートする役割を果たすこともできる。社会的な意識と思いやりがあれば、あらゆるレベルのリーダーが、チームと組織と社会という3つの重要な領域で非白人の能力を正しく評価し、その存在を確認し、サポートすることができるのだ。